著者の所属・活動拠点の国は、イギリスです。
掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
豆類(パルス)は植物性たんぱく質や食物繊維を含み、健康的で環境負荷の少ない食生活の柱の一つとされています。論文が背景として紹介する先行研究によれば、持続可能な食事の指針では乾燥した豆・レンズ豆・エンドウ豆を1日50グラム食べることが推奨されていますが、英国での摂取量は1人1日あたり約8.5グラムにとどまっています。
インゲン豆は英国では「ベイクドビーンズ」として広く食べられていますが、気候条件が合わず、これまで国内で商業栽培されてきませんでした。近年、英国の気候に合わせて育種された新品種が登場し、国産の豆を育てて食べる道が開けつつあります。ただし、こうした豆が食生活の変化につながるには、日々の家庭の料理の中で無理なく使われるものになる必要があります。
研究チームは、英国産の新品種のインゲン豆を乾燥豆の形で家庭に届け、人々がその豆についてどう学び、試し、家族の食事に取り入れていくのかを詳しく調べました。この研究は、学校給食や家庭の料理に国産の豆を導入するプロジェクト「BeanMeals」の一部として行われました。
どのように調べたか
研究の舞台はイングランド中部のレスターです。同市は食生活に関わる健康問題の割合が平均より高く、豆料理の伝統を持つ南アジア系の住民も多い地域です。研究チームは、文化的に多様な地域の学校と、全国でも経済的に厳しい地域にある学校の2校から、9〜10歳の学年の子どもがいる10世帯の協力を得ました。
各家庭の大人と子どもは、学校で開かれた3回の料理教室に参加し、プロの料理講師と一緒に豆のスープやバーガーなどを作りました。さらに研究者が各家庭を2回訪問し、聞き取りを行ったほか、台所を案内してもらいながら調理器具や収納の様子を観察し、豆を使った料理を作る場面にも立ち会いました。家庭には英国産の乾燥豆500グラムが配られ、参加者は自宅での料理を写真や動画、日記で記録しました。
分析には「社会的実践理論」という考え方が使われました。これは、人の行動を個人の意識や知識だけで説明するのではなく、「モノ」(台所の設備や道具、食材)、「能力」(技術やコツ)、「意味」(料理や食事に込められた文化的・社会的な意味合い)の三つの要素の組み合わせとして捉える枠組みです。なお、この研究は介入の効果を測るものではなく、対照群や前後の比較は設けていません。家庭ごとの実践を深く理解することが目的です。
主な結果
研究チームは、乾燥豆の扱いへの慣れ具合に応じて、各家庭を「熟練者」(4世帯)、「中級者」(3世帯)、「初心者」(3世帯)の3つに分類しました。
「熟練者」の家庭は、主に南アジア系の菜食の家庭で、豆料理の伝統、体に染みついた調理のコツ、それを支える台所の環境を備えていました。ある参加者が「それが私たちの普段のやり方」と語ったように、乾燥豆の下ごしらえは日常の一部になっており、英国産の乾燥豆も容易に料理へ取り入れていました。食材のまとめ買い、献立の計画、家族そろっての食事、まとめて調理して冷凍しておくこと、圧力鍋の活用などが、乾燥豆を使う習慣を支える実践として示されています。
一方、「初心者」と「中級者」の家庭は、料理教室での学びや繰り返し豆に触れる経験、自宅での試行錯誤を通じて、新しい技術や自信、豆を家族の食事に取り入れる工夫を身につけていきました。「初心者」の家庭では、家族の中に食べられるものが限られる人(偏食)がいることへの対応が課題となり、食べ慣れた料理に豆を混ぜ込む方法が中心になりました。料理には慣れている「中級者」の家庭では、乾燥豆を水に浸してゆでる下ごしらえに時間がかかると感じられることが主な壁となっていました。
研究が示すこと
著者らは、家庭ごとの「モノ」「能力」「意味」の違いが、豆、とくに乾燥豆の利用を後押ししたり妨げたりしていたと述べています。新しい調理の技術は、人と一緒に学ぶことや試行錯誤によって身につけられる一方で、浸して煮るといった手間がかかると感じられる習慣を続けるには、家庭の設備や社会的な条件の長期的な変化が必要になる可能性があるとしています。
また、参加したどの家庭でも英国産の豆を食べることへの好意的な受け止めや関心が見られたと報告されています。著者らは、乾燥豆に慣れていない家庭については、あらかじめ下ごしらえされた形の豆が利用を支えうるとし、それが英国の食料システムにとって新たな機会にもなりうると論じています。国産の豆を食卓に広げるには、豆そのものだけでなく、それを日々の料理に組み込む家庭の暮らし方にも目を向ける必要があることを、この研究は示しています。
原著論文の著者・所属:Lucy Michaels(entre for Research in Public Health & Community Care (CRIPACC), University of Hertfordshire, Hatfield, Hertfordshire, United Kingdom)、Angela Dickinson(entre for Research in Public Health & Community Care (CRIPACC), University of Hertfordshire, Hatfield, Hertfordshire, United Kingdom)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lucy Michaels, Angela Dickinson. Introducing UK-grown dried beans into households in England: a practice-based analysis of a sustainable food intervention. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-10-22. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1948009. 原著ライセンス:CC BY.