血管は年齢とともに少しずつ硬くなっていく——これは誰もが避けられない変化のように思われがちです。しかし近年の研究では、日々の食事の内容が血管の「しなやかさ」の変化に関与している可能性が示されつつあります。今回ご紹介するスペインの縦断研究は、特定の栄養素の摂取量と5年間にわたる動脈硬化度の変化を追った、注目すべき報告です。
研究でわかってきたこと
この研究は、心血管疾患の既往がない成人466名(平均年齢約56歳)を対象に、食事調査(3日間の食事記録)と動脈硬化度の測定を、ベースラインと5年後の2時点で実施したものです。動脈硬化度の指標には、頸動脈〜大腿動脈間の脈波伝播速度(cfPWV)と、心臓足首血管指数(CAVI)という2種類の測定値が用いられました。これらはいずれも、血管の「しなやかさ」を数値で表すものです。
年齢・性別・生活習慣・心血管リスク因子を統計的に調整したうえで分析した結果、以下の関連が報告されています。
- 食物繊維の摂取量が多いほど、cfPWVで評価した中心動脈硬化度の進行が緩やかである傾向が示唆されました。
- アルコール摂取量が多いほど、CAVIで評価した動脈硬化度と正の関連があったと報告されています。
- 鉄の摂取量が多いほど、同じくCAVIとの正の関連が示唆されました。
この研究はあくまでも観察研究であり、因果関係を直接証明するものではありません。しかしながら、食物繊維・アルコール・鉄という具体的な栄養素と血管の経年変化との関連を5年間追跡した点は、食と血管健康を考えるうえで興味深い知見といえます。
注目の食品と成分データ
この研究でとりわけ目を引くのが、アルコール摂取量との関連です。蒸留酒の代表格であるジンは、可食部100gあたりのアルコール含有量が40.0g、エネルギーは280kcal(出典:日本食品標準成分表(八訂)、文部科学省)。同じ蒸留酒のラムはアルコール33.8g、エネルギー237kcal(出典:同)と、いずれも高濃度のアルコールを含みます。蒸留酒は少量でも純アルコール摂取量が多くなりやすく、飲む量が同じでも体内に入るアルコール総量は飲料の種類によってかなり異なります。
また、研究でCAVIとの正の関連が示唆された鉄については、食品中の鉄含有量も食品の種類によって大きく異なります。ラムやジンの鉄は推定値として0mgとされています(出典:同)。鉄を多く含む食品としては、レバーや赤身肉、貝類、豆類などが一般的によく知られています。なお、食物繊維については全粒穀物・豆類・野菜・海藻などに広く含まれる成分として知られています。
日々の食事に取り入れるヒント
研究の知見を踏まえると、日々の食事で意識したいポイントがいくつか見えてきます。
- 食物繊維を意識して取り入れる:玄米や雑穀、豆類、ごぼうやキャベツなどの野菜、海藻、きのこ類など、食物繊維を多く含む食品を毎食のなかに組み込むことが、食事のバリエーションを豊かにするうえでも役立つ可能性があります。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維はそれぞれ性質が異なるため、さまざまな食品から取るのがポイントです。
- アルコールは量と種類を意識する:ジン(アルコール40.0g/100g)やラム(同33.8g/100g)のような高アルコール飲料は少量でも純アルコール摂取量が多くなります。最新の日本人の食事摂取基準(厚生労働省)でもアルコールは生活習慣病リスクとの関連が議論されており、飲む場合は量のコントロールが大切です。
- 食事全体のバランスを見直す:鉄はヘモグロビンの構成成分として欠かせないミネラルですが、摂取源や総量にも目を向けることが重要です。肉・魚・貝などに多い「ヘム鉄」は吸収されやすく、野菜・豆類などの「非ヘム鉄」はビタミンCと一緒に取ることで吸収が助けられるとされています。
食事の記録をつけてみると、自分がどの栄養素を過不足なく取れているかが見えやすくなります。今回の研究ではEVIDENTスマートフォンアプリを用いた3日間の食事記録が調査手法として採用されており、日常的なセルフモニタリングの手段として食事記録アプリを活用してみることも一つの方法です。
血管の健康は一朝一夕には変わりません。しかし、毎日の食選びの積み重ねが長い目で見て大切であることは、この5年間の追跡研究が示唆するとおりです。特定の食品に頼るのではなく、食物繊維を含む多様な食品をバランスよく組み合わせ、アルコールとのつき合い方も見直していくことが、血管を含む身体全体の長期的な維持につながると考えられます。食卓を豊かにすることが、そのまま身体への長期的な投資にもなりうる——そんな視点で日々の食事を楽しんでみてください。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。参考文献:Dietary Fiber Is Inversely Associated with Central Arterial Stiffness Progression, While Alcohol and Iron Intake Are Positively Associated with CAVI: A 5-Year Longitudinal Study(ニュートリエンツ(2026-04-22))