著者の所属・活動拠点の国は、タイです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
DNAの数を「肉の重さの割合」に直すという課題
食肉の偽装では、安価な鶏肉が、味や食感の似たアヒル肉の代わりに使われることがあります。ひき肉や加工品では見た目で肉の種類を見分けられないため、DNAを手がかりに判別する方法が使われてきました。DNAは動物の種類ごとに異なり、加熱や加工を受けても比較的残りやすいからです。
ただし、DNAの測定で分かるのは、試料に含まれる特定の遺伝子の数です。表示や規制で問題になるのは「重量で何%混ざっているか」なので、DNAの数をどう重量割合に換算するかが大きな課題でした。著者らは、既存の研究の多くが検出の有無に重点を置くか、一つの換算係数を十分な検証なしに当てはめていると指摘しています。そこで研究チームは、アヒル肉に混ざった鶏肉の量をデジタルPCRで測り、重量割合へ換算する複数の方法を体系的に比べました。
どのように調べたか
デジタルPCRは、DNA溶液を数千以上の微小な区画(この研究では油の中の小さな液滴)に分け、それぞれで目的の遺伝子が増幅されるかどうかを数えることで、標準となる検量線なしにDNAの数を直接求める手法です。研究チームは、鶏に特有の遺伝子、アヒルに特有の遺伝子、そして多くの動物に共通するミオスタチンという遺伝子を測定対象にしました。いずれも細胞の核に1組あたり1コピーだけ存在する遺伝子で、コピー数が組織によって変わりやすいミトコンドリアDNAより、量の換算に向いているとされます。
鶏とアヒルの検出系は、ほかの鳥類や哺乳類、魚、植物のDNAとは反応しないことが確認されました。また、2種類の遺伝子を1回の反応で同時に測る方式でも、1種類ずつ測る方式と同等の結果が得られたため、以降の実験では同時測定方式が使われました。
換算方法を評価するため、5羽ずつの鶏とアヒルから、鶏肉の割合が0%から100%(0.1%、1%、5%、10%、25%、50%、75%、80%を含む)になるよう重さを量って混ぜた試料を5組作りました。そのうえで、鶏とアヒルのDNA数の比をそのまま使う方法、その比に補正係数を掛ける方法、鶏のDNA数を共通遺伝子ミオスタチンの数で割る方法、その比に補正係数を掛ける方法、既知の混合試料から作った直線の換算式を使う方法、の5通りを比べました。
主な結果
まず、同じ重さの肉から抽出されるDNAの量は、アヒルの方が鶏より多いことが分かりました。著者らは、アヒルの細胞の密度が高いことが一因かもしれないと考察しています。両種のゲノムの大きさはほぼ同じで、乾燥させた肉の水分量にも差はありませんでしたが、DNAの数の比はそのままでは重量の比と一致しないことが示されました。補正係数は、鶏とアヒルの比に対するものが約1.16、ミオスタチンを基準にしたものが約1.51と求められました。
5つの方法の精度は、鶏肉の割合によって変わり、全範囲で最良となる方法はありませんでした。補正係数を使う方法は、低めから中程度の割合では重量に基づく値とよく一致した一方、鶏肉の割合が高い試料では過大な値を示しました。直線の換算式を使う方法は、鶏肉5%以上ではずれもばらつきも小さかったものの、0.1〜1%の低い割合では大きく外れ、鶏肉0%の試料でも見かけ上の陽性が出ました。検出できる下限はどの方法も0.1%で、信頼できる定量の下限は方法により0.1%から5%でした。
次に、性能に基づいて選んだ方法を、鶏肉10%と75%の混合試料に適用し、凍結乾燥、生、高温高圧処理(121℃で20分)の各状態で試したところ、いずれも目標値から±25%以内に収まりました。さらに豚、ダチョウ、七面鳥も混ぜた多種混合の模擬試料や、ゆでた試料でも、2つの補正係数法による推定値は目標値から±25%以内でした。全体として、鶏とアヒルの比に基づく方法の方が目標値に近い傾向がありました。
市販のアヒル製品にも適用したところ、多くの製品では鶏のDNAは検出されませんでした。一部の製品ではわずかな量が検出され、アヒル肉と砂肝を原料とする表示のひき肉1点では、鶏肉の割合が数十%と推定されました。
この研究が示すこと
この研究は、DNAの数を測るだけでは肉の重量割合を正しく表せず、どの換算方法が適しているかは混入量の範囲によって異なることを、実際の混合試料で具体的に示しました。著者らは、デジタルPCRに適切な換算方法を組み合わせることで、アヒル肉に含まれる鶏肉の量を定量的に判定する助けになりうると結論づけています。食品の表示が正しいかを確かめる検査で、DNAの測定結果をより信頼できる数値として扱うための土台となる知見です。
原著論文の著者・所属:Sasithon Temisak(Bioanalysis Group, Chemical Metrology and Biometry Department, National Institute of Metrology (NIMT), Pathumthani 12120, Thailand)、Jarupa Tunhyongnoppakoon(Bioanalysis Group, Chemical Metrology and Biometry Department, National Institute of Metrology (NIMT), Pathumthani 12120, Thailand)、Jiranun Boonnil(Bioanalysis Group, Chemical Metrology and Biometry Department, National Institute of Metrology (NIMT), Pathumthani 12120, Thailand)、Ganyarat Thaiwan(Department of Biology, Faculty of Science, Naresuan University, Phitsanulok 65000, Thailand)、Chakkit Tanai(Department of Biology, Faculty of Science, Naresuan University, Phitsanulok 65000, Thailand)、Watiporn Yenchum(Bioanalysis Group, Chemical Metrology and Biometry Department, National Institute of Metrology (NIMT), Pathumthani 12120, Thailand)、Kanjana Hongthong(Bioanalysis Group, Chemical Metrology and Biometry Department, National Institute of Metrology (NIMT), Pathumthani 12120, Thailand)、Nusara Yinyom(Bioanalysis Group, Chemical Metrology and Biometry Department, National Institute of Metrology (NIMT), Pathumthani 12120, Thailand)、Phattaraporn Morris(Bioanalysis Group, Chemical Metrology and Biometry Department, National Institute of Metrology (NIMT), Pathumthani 12120, Thailand)、Pattanapong Thangsunan(Division of Biochemistry and Biochemical Innovation, Department of Chemistry, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand; Materials Science Research Center, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sasithon Temisak, Jarupa Tunhyongnoppakoon, Jiranun Boonnil, et al. Conversion of DNA Copy Number Ratios to Mass Fractions for Quantifying Chicken Adulteration in Duck Meat by Digital PCR. Foods 2026-10-01. DOI: 10.3390/foods15193523. 原著ライセンス:CC BY.