この研究は、バングラデシュの研究機関の研究論文です。

掲載誌:IMC Journal of Medical Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

自閉スペクトラム症(ASD)は、対人コミュニケーションの困難、繰り返しの行動、強く限られた興味、感覚の偏りなどが幼い頃から見られる神経発達症です。著者らによると、ASDの子どもでは、細胞のエネルギー産生を担うミトコンドリアの働きの低下が報告されています。また、食べられるものが限られる偏食もよく見られます。著者らは、このどちらも血液中のクレアチニンを押し上げる可能性があると考えました。

クレアチニンは、筋肉などでエネルギーの一時的な蓄えとして使われるクレアチンが分解されてできる最終産物で、腎臓から排出されます。一般に腎機能の目安として使われますが、魚や卵などクレアチンを多く含む食品をとったり、たんぱく質を多くとったりすることでも増えるとされます。一方、尿素はたんぱく質の分解で生じる窒素から肝臓で作られる物質です。筋肉のクレアチンの動きとは、あまり直接には連動しません。

これまでASDの子どもの血清クレアチニンや尿素を調べた研究は少なく、変化はないとする報告がありました。しかし、食事を同時に調べた研究はなく、魚をよく食べる集団も対象になっていませんでした。そこで研究チームは、バングラデシュのASDの子どもで血清クレアチニン、尿素、血糖を測りました。あわせて、違いがあるとすれば食事のたんぱく質摂取がどの程度関係しているかを調べました。

調べた方法

研究は2019年7月から2020年6月にダッカ医科大学で行われました。ある一時点の状態を比べる横断研究です。対象は5〜18歳の子ども60人でした。診断基準を満たすASDの子ども30人と、年齢や体格指数(BMI)をそろえた健康な子ども30人を比較しました。てんかんや注意欠如・多動症など、ほかの精神医学的な診断がある子どもは除かれています。

採血して、血清クレアチニン、尿素、採血時の血糖を測定しました。食事については保護者への聞き取りで、食品ごとの食べる頻度や量を尋ねました。そのうえで、バングラデシュの食品成分表を用いて1日のたんぱく質摂取量を推定し、体重1キログラムあたりの量を安全とされる摂取量の範囲と比べました。世帯の経済状況も調べています。

主な結果

ASDの子どもの血清クレアチニンの平均は1デシリットルあたり0.74ミリグラムでした。健康な子どもの0.51ミリグラムより統計的に有意に高く、小児の基準範囲の上限である0.70ミリグラムを上回っていました。健康な子どもの値はすべて基準範囲内でした。これに対し、尿素と血糖には両群で有意な差はありませんでした。

食事では、魚をよく食べる子どもの割合がASDの群で73.3%、健康な群で46.7%でした。卵では66.7%と40.0%で、いずれもASDの群のほうが高い結果でした。野菜をよく食べる割合はASDの群で33.3%と、健康な群の80.0%を大きく下回りました。豆類、肉、乳製品では差は見られませんでした。

推定された1日のたんぱく質摂取量は、ASDの群で平均58.4グラムと、健康な群の44.7グラムより有意に多い結果でした。体重1キログラムあたりでは2.8グラムで、論文はこれを、安全とされる範囲の上限のおよそ2倍にあたると報告しています。ASDの群の中では、たんぱく質摂取量が多い子どもほど血清クレアチニンが高いという強い正の相関が見られました。クレアチニンのばらつきの約49%が、たんぱく質摂取量で説明できる計算でした。世帯収入や母親の教育水準は両群で同程度でした。

研究が示すこと

著者らは、ASDの子どもで見られたクレアチニンの上昇について、魚や卵を好んで食べることによる、たんぱく質の多い食事が主な要因だと解釈しています。血糖が正常範囲だったことから、糖尿病による腎臓の障害は説明として考えにくいとしています。また、経済状況が同程度だったことから、食べ物の偏りは家計よりも子どもの感覚や行動の特徴によるものと考えられるとしています。一方で、ミトコンドリアの機能は今回測定しておらず、その関与は仮説にとどまると明記しています。

著者らは研究の限界として、対象が1施設の少人数であることと、食事が保護者の聞き取りに基づくことを挙げています。そのうえで、ASDの子どもの診療で、血清クレアチニンの定期的な確認と食事指導を取り入れることを提案しています。この研究は、ASDの子どものクレアチニン値と日頃の食べ方との結びつきを、食事の調査と血液検査を組み合わせて示したものです。

著者:Asma Sultana Riya(Department of Biochemistry, Institute of Applied Health Sciences (IAHS), Chattogram, Bangladesh)、M. S. Zaman(Department of Biochemistry & Molecular Biology, Bangladesh Medical University, Dhaka, Bangladesh)、Mahbuba Binte Mannan(Department of Biochemistry, Shaheed Monsur Ali Medical College, Dhaka, Bangladesh)、Tanzia Tahfim(Department of Biochemistry, Shaheed Monsur Ali Medical College, Dhaka, Bangladesh)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Asma Sultana Riya, M. S. Zaman, Mahbuba Binte Mannan, et al. Serum creatinine, urea and dietary protein intake in Bangladeshi children with autism spectrum disorder. IMC Journal of Medical Science 2026-09-30. DOI: 10.55010/imcjms.20.013. 原著ライセンス:CC BY.