カレーの黄色い色素として知られるクルクミン——ウコン(ターメリック)の主成分です。食品素材として長年注目されてきたこの成分には、ひとつの大きな課題があります。食べても消化管で素早く分解・吸収されてしまい、腸の奥まで安定した形で届きにくいという性質です。研究者たちはその課題をどう解決しようとしているのか。2026年5月に国際誌『フード・リサーチ・インターナショナル』に掲載された研究が、食品科学の新しいアプローチを報告しています。

「包む」技術で消化管突破に挑む

この研究が取り組んだのは、クルクミンをゲランガム(細菌が産生する多糖類の一種で、ゼリー状の食感を作る食品用素材)のゲル(ゼリー状の構造体)の中に安定して閉じ込める方法の開発です。さらに鍵を握るのが、「NADES(ナデス)」と呼ばれる溶媒です。

NADESとは「天然深共晶溶媒」の略で、ひと言でいえば、植物や微生物にも含まれる天然由来の成分どうしを組み合わせて作る、環境への負荷が小さい溶媒です。研究チームはリンゴ酸とブドウ糖の組み合わせ、リンゴ酸とキシリトールの組み合わせ、そしてベタインとリンゴ酸の組み合わせという3種類のNADESを使い、それぞれクルクミンをゲランガムゲルに封入して比較しました。

研究でわかってきたこと

三種類の中で最も効果的だったのは、ベタインとリンゴ酸を組み合わせたNADESをゲランガムに加えたシステムでした。このゲルは純粋なゲランガムと比べて弾性率(ゲルの硬さの指標)が約20倍に高まり、内部の微細構造は大きな空孔から緻密な網目状に変化したと研究では報告されています。

注目されるのはクルクミンの放出率です。消化管を模した条件で実験したところ、ベタイン・リンゴ酸NADESとゲランガムの組み合わせでクルクミンを封入したものは、消化管での放出率が29%にとどまりました。これは「消化されなかった=摂取できなかった」ことを意味するのではなく、消化管の早い段階で分解されてしまうクルクミンをゲルが守り、本来届けたい部位までより多くの量を運ぶことを意図した設計によるものです。封入したクルクミンの70%超が途中で失われずにゲル内に保持されたことは、この技術の狙い通りの結果といえます。分子レベルのシミュレーションでも、このシステムでは水分子との結合が安定的に抑えられた状態(水の全エネルギーが最小)にあり、それがゲル構造の安定性の高さにつながることが示唆されたとされています。

研究チームはこの技術が、食用パッケージング(食べられる包材)や機能性食品への応用可能性を持つと提案しています。ただしこれはあくまでも試験管・コンピューター上での実験段階の報告であり、ヒトが食べた場合の有効性や安全性を示したものではありません。実用化にはさらなる検証が必要です。

研究素材と身近な食品のちいさな接点

今回のNADESの素材として研究で用いられた「リンゴ酸」は、りんご(皮つき・生)に100gあたり0.4g含まれており、りんごの酸味成分の一つです。中1個(約250g)に換算すると約1gのリンゴ酸が含まれる計算になります(約の値)。ただし、研究で使われたリンゴ酸はNADESの溶媒成分として化学的に精製・調製されたものです。りんごを食べることで今回の研究と同様の効果が得られるわけではなく、あくまで「実験室で使われた素材が食品の中にも存在する」という小さな接点として知っておく程度のことです。

日々の食事への応用はまだ先、でも「届ける技術」への関心は高まっている

今回の研究のような「成分をいかに体内の目的の場所まで届けるか」という技術開発は、食品科学の最前線のテーマのひとつです。素材をそのまま食べるだけでなく、包み方・運び方を工夫することで機能が変わりうるという発想は、これからの食品設計に広がる視点といえます。

とはいえ、日々の食生活で大切なのは、特定の成分を過剰に摂ることより、さまざまな食品をバランスよく組み合わせることです。日本人の食事摂取基準に示されるように、必要な栄養素を食事全体から過不足なく摂ることが基本です。研究の進展を楽しみに見守りながら、まずは毎日の食卓の多様さを大切にしてみてください。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。参考文献:Natural deep eutectic solvents assisted the encapsulation of curcumin in gellan gum hydrogels(フード・リサーチ・インターナショナル(2026-05-02))

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準文部科学省 食品成分データベース消費者庁