まいわしの干物を定食に選ぶ、炒め物にオリーブ油を使う、おやつにくるみをひとつかみ──こうした何気ない日常の選択が、20年単位でどんな意味を持つのか。2026年6月に発表された大規模なメタ分析が、「脂質の種類」という切り口でその問いに迫りました。

まず「不飽和脂肪酸」を知っておこう

脂質は大きく「飽和脂肪酸(肉の脂など固まりやすい脂質)」と「不飽和脂肪酸」に分かれます。不飽和脂肪酸のうち、炭素の二重結合が1つのものを一価不飽和脂肪酸(MUFA)、2つ以上のものを多価不飽和脂肪酸(PUFA)と呼びます。オリーブ油に多いオレイン酸はMUFAの代表、青魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)はn-3系PUFA、くるみや植物油に多いリノール酸はn-6系PUFAです。DHAやEPAは体内でほとんど合成できず、食事から摂ることが必要とされています(日本人の食事摂取基準)。

126万人・最長22年が示したもの

今回の研究は、前向きコホート研究13件を統合したシステマティックレビュー&メタ分析です。参加者総計1,268,249人、追跡期間8〜22年、膵臓がん発症4,766例という規模で行われました。最多摂取群と最少摂取群を比べた全体解析では、PUFA(リスク比0.87、95%信頼区間0.73〜1.03)、MUFA(1.01、0.81〜1.26)、オメガ3(1.11、0.88〜1.40)のいずれも統計的な有意差は認められませんでした。

ところが追跡期間10年以上に絞ったサブグループ解析では、異なる姿が浮かびます。PUFAでリスク比0.81(0.66〜0.99)、DHAで0.75(0.62〜0.91)、EPAで0.79(0.65〜0.96)と、いずれも有意な逆相関の傾向が報告されたのです。また非線形の用量反応分析では、オレイン酸を1日18〜30g摂取した範囲でリスクとの逆相関の可能性が示唆されています。10年を超える長い時間軸の中でこそ、脂質の種類が関わってくるかもしれない──そんな視点を提示する結果です。ただしこれらはあくまで観察研究のメタ分析であり、因果関係を直接示すものではありません。

食卓の「脂質」、どんな食品に?

なお、ここで挙げるのは各脂肪酸を含む食品の例であり、特定の食品が膵臓がんを予防したりリスクを下げたりするものではありません。n-3系PUFAを含む食品として、今回の例示データを見てみましょう。まいわし 生干しは可食部100gあたりn-3系多価不飽和脂肪酸が3.12g。日本人の食事摂取基準の女性30〜49歳の目安量1.7g/日に対し、100gあたりで約1.8倍という高い密度です。ただし一尾あたり60〜80g程度が一般的な目安であり、この場合のn-3系多価不飽和脂肪酸は概算で約2g前後となります。

植物性PUFA源として注目したいのがくるみ いり。100gあたりn-3系多価不飽和脂肪酸8.96g、n-6系多価不飽和脂肪酸41.32gとPUFAの密度が高い食品です。ただし100gは一度に食べる量としては多く、ひとつかみ程度(約25g)を目安とした場合、n-3系は概算で約2g程度となります。

MUFAについては、オリーブ油が100gあたり一価不飽和脂肪酸74.04g、なたね油が60.09gです(なたね油にはn-3系多価不飽和脂肪酸も100gあたり7.52g含まれます)。大さじ1杯(約12〜14g)に換算すると、オリーブ油で一価不飽和脂肪酸が約9〜10g、なたね油で約7〜8gの概算です。オレイン酸はMUFAの主要な一種であり、オリーブ油のMUFAの大部分をオレイン酸が占めることは一般に知られていますが、今回の提供データには個別のオレイン酸量の記載はないため、ここでは直接の換算は行っていません。

日々の食事に取り入れるヒント

この研究が示唆するのは、特定の食品や栄養素だけに答えを求めるよりも、長期にわたる食事全体のパターンの中で「どの種類の脂質を選んでいるか」が関わってくる可能性です。不飽和脂肪酸を意識しながら、多様な食品をバランスよく取り入れる食習慣が、研究から読み取れるひとつのヒントといえるでしょう。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。参考文献:Association of dietary intake and serum levels of unsaturated fatty acids and risk of pancreatic cancer: A GRADE-assessed systematic review and dose-response meta-analysis of prospective cohort studies(がん疫学(2026-06-03))