6月も下旬に入り、魚屋の店先に鮮やかな赤身が並ぶ。かつお 春獲り 生——いわゆる「初がつお」の最盛期が、今まさにここにある。

かつおには旬が二度ある。春から夏にかけて北上する「初がつお」と、秋に南へ下る「戻りがつお」だ。同じ魚とは思えないほど顔が違う。秋の戻りがつおは脂をたっぷりまとった濃厚な味で「トロ鰹」と呼ばれることもあるが、今の季節に揚がる春獲りは脂質がわずか100gあたり0.5g。きりっと引き締まった赤身が持ち味で、すっきりとした後味が夏の始まりの食卓によく映える。この軽やかさは、秋になれば二度と戻らない。

すっきりした身に、たんぱく質25.8gが宿る

脂質が少ない分、春のかつおが秀でているのがたんぱく質の密度だ。可食部100gあたり25.8g、エネルギーは108kcal。脂のりが穏やかなぶん、身そのものはたんぱく質をしっかり蓄えている。刺身として食べる量でも、良質なたんぱく質をすっきり受け取れるのが春獲りの持ち味だ。

同時に豊富なのがナイアシンとビタミンB6だ。ナイアシンは皮膚や粘膜の健康維持を助ける補酵素で、100gあたり19mgと魚介類の中でも際立って高い。ビタミンB6はアミノ酸の代謝を助ける補酵素で、100gあたり0.76mg——日本人の食事摂取基準における女性30〜49歳の推奨量1.2mg/日の63%にあたる。生のまま刺身で食べるのは、加熱や水に弱いとされるビタミンB6を無駄なく摂れる食べ方でもある。ナイアシンはほかのビタミンB群とともに摂ると効率よく働くとされるため、薬味として添えるねぎや、ごまを合わせるのはよい組み合わせといえる。

なお、かつおにはセレンも多く含まれる(100gあたり43µg)。女性30〜49歳の推奨量は1日25µgなので、100gで推奨量を上回る量にあたる(約172%)。セレンには耐容上限量も定められているが、同じ年齢帯の女性で1日350µg——43µgはこれを大きく下回り、通常の食事量で過剰を心配する水準ではない。

※ここで紹介した栄養素の働きは一般的な情報であり、特定の食品の効果を示すものではありません。

今だけの食べ方——刺身、たたき、漬け

初がつおの定番は、なんといっても刺身とたたきだ。切り身を選ぶときは、鮮やかな赤色で身がしまっており、血合いの色がはっきりしているものを。さくならば光沢があって、腹部の縞模様が鮮明なものが新鮮な証拠だ。傷みが早い魚なので、購入したその日のうちに食べるのが鉄則となる。

たたきはにんにくやしょうが、みょうがをたっぷり添えて。生のかつおにたっぷりのねぎとしょうがを合わせる「かつおの漬け」も、6月の食卓にぴったりの一皿だ。醤油とみりんのたれに一晩漬ければ、翌朝のごはんのお供にもなる。

プリン体を気にしている方は、かつおはプリン体が比較的多い魚として知られるので、量を調整しながら楽しむとよいだろう。

秋にまた、別の顔で

初がつおが食べられるのは、今この時期だけだ。秋になれば南下する戻りがつおが店頭に並ぶが、あの濃厚な脂は春の軽やかさとは別物で、どちらが上ということはなく、ただ季節の顔が違う。

縄文時代の貝塚から骨が出土するほど古くから日本人の食卓に上ってきた魚が、今また旬の盛りを迎えている。6月の下旬、すっきりとした赤身を一さく買って帰る——それだけで、季節を口で受け取ることができる。秋の戻りがつおとの再会を楽しみに取っておきながら、今日は初がつおをたっぷり味わいたい。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準