スーパーの鮮魚コーナーに並ぶ栄養表示は、すべて「可食部100gあたり」の数字だ。ところがまあじ(皮つき・生)を1尾買えば、廃棄率は55%——頭・骨・内臓を取り除いた後に実際に食べられる部分は約72gしかない。あさり(生)は殻付きで廃棄率70%、10個(殻つき80g)の可食部はわずか24g程度だ。「数字が良いから買おう」と選んだ食品でも、捨てる部分を考慮しないと手元に残る栄養量は思いのほか少ない。魚介を賢く選ぶ第一歩は、100gのスペック比較より「1尾・1ぱい・10個で実際に何を得られるか」を知ることにある。
廃棄率と目安量で読み替える、6品の実力
まあじ——1尾72gの可食部で得るもの
まあじ1尾の目安量は160g。廃棄率55%なので可食部は約72gになる。この72gからたんぱく質は約14g、脂質は約3.2gを得られる計算だ。鮮度を見極めるポイントは、目が澄んでいて黒目がはっきりしているか、えらが鮮やかな赤みを保っているか、腹が張ってかたいかどうか。購入後すぐに食べない場合は、えらと内臓を取り除いてキッチンペーパーで水気を拭き取り、ラップで包んで冷蔵庫のチルド室へ。下処理済みなら2〜3日、そのままなら当日中が目安だ。
するめいか——1ぱい丸ごと買う意味
するめいか(生)の目安量は1ぱい200g。廃棄率のデータは提供されていないが、胴・足・耳(ひれ)を合わせると食べられる部分はかなり多い。たんぱく質は100gあたり17.9g、脂質はわずか0.8gと低脂質で食べ応えがある食品だ。鮮度のサインは、胴が透明感のある白紫色でつやがあり、足の吸盤がしっかり張っていること。鮮度が落ちると赤みが強くなり、身がやわらかくなる。冷蔵保存は当日〜翌日が限度で、下処理して冷凍すれば2〜3週間は使える。なお、するめいかは食物アレルギーを起こしやすいとされる特定原材料に準ずる食材のため、アレルギーのある方は注意が必要だ。
くるまえび——大1尾か小1尾か、単位が変える量
くるまえび(養殖・生)は廃棄率55%。たんぱく質は100gあたり21.6gと魚介でも上位の含有量だ。大1尾の目安量は約40g、小1尾は約20gだが、殻や頭を除いた可食部は大1尾で約18g、小1尾で約9g。そこから得られるたんぱく質は約3.9gと約1.9gで、ちょうど2倍の差がある。「1尾」という単位は大きさによってまったく異なる量を指す。殻の色が黒ずんでおらず、身に張りとつやがあるものが新鮮だ。冷蔵では殻ごとラップして翌日中に。冷凍する場合は塩水で洗って水気を切ってから保存袋へ。
あさり——10個で得る驚きのビタミンB12
殻つき10個(80g)、可食部24g程度のあさりだが、ビタミンB12の含有量は100gあたり44.8µgと際立って多い。ビタミンB12はアミノ酸や核酸の代謝に関わり、赤血球(ヘモグロビン)の形成を助けるビタミンだ。日本人の食事摂取基準によると成人(30〜49歳)の目安量は男性4µg・女性4µg。ビタミンB12は水溶性のため、通常の食事で過剰摂取が問題になることはほとんどないとされる。鮮度を見るには、口がしっかり閉じているか、または水に入れると元気よく動くかを確認する。砂抜きは3%食塩水(水1Lに塩30g)に30分〜1時間。砂抜き後は密閉容器に水を切って冷蔵し、翌日中が目安。輸入品は一年中出回るが、本来の旬は冬から4月まで。この時期に国産を選ぶと身が引き締まりやすい。
さんまと干しいわし——脂の乗りを「単位」で実感する
さんま(皮つき・生)1尾の目安量は150g。脂質は100gあたり25.6gと多く、1尾で約38gの脂質を含む計算だ。EPA(イコサペンタエン酸)は100gあたり1,500mg、DHA(ドコサヘキサエン酸)は2,200mg。EPAやDHAは、青魚に多いn-3系(オメガ3)多価不飽和脂肪酸に分類される脂肪酸だ。ただし、さんまは季節・漁場・魚の大きさによって脂質量に差があるため、この数値はあくまで目安として捉えたい。鮮度のサインは目の澄み、背中の青みの鮮やかさ、肛門が締まっていること。内臓を取り除かずに塩をふってポリ袋に入れ、チルド室で保存すれば翌日まで。
まいわし(生干し)は干すことで重量が減り、100gあたりの成分値が生より凝縮される形になる。EPA 1,400mg、DHA 1,100mgを含み、生干しは購入時にすでに加工済みのため、開封後は冷蔵で2〜3日、冷凍なら1か月程度保存できる。食塩相当量は100gあたり1.8gあるため、塩分が気になる場合は量を調整したい。日本人の食事摂取基準では、食塩相当量の目標量は成人(30〜49歳)で男性7.5g未満・女性6.5g未満と示されている。
※ここで紹介した栄養素の働きは一般的な知識であり、特定の食品が健康効果・効能を持つことを示すものではありません。
「選ぶ→保存する」をセットにする実践術
魚介の鮮度を見極めるポイントは食品によって異なる。まあじ・さんまは「目の澄み・えらの色・腹の張り」、するめいかは「胴の透明感・吸盤の張り」、くるまえびは「殻の色・身のつや」、あさりは「口の閉じ具合・動き」が共通して使える基準だ。買ったその日に食べない分は、下処理してチルド室か冷凍が鉄則。特に内臓を持つ魚(まあじ・さんま)は、帰宅後すぐに内臓を取り除くことで保存期間が伸びる。
廃棄率が高い食品(まあじ55%・くるまえび55%・あさり70%)を買うときは、目当ての量の2〜3倍の重量が必要になることを念頭に置いて量を選ぶと、食卓に並ぶ量が変わってくる。「1パック買えば足りると思ったのに少なかった」という経験の多くは、この廃棄率の見落としから来ている。
旬の真価は、単位を変えて初めて見える
100gの数字を並べても、実際の食卓では1尾・1ぱい・10個という単位で魚介は手元に届く。廃棄率と目安量を重ねてはじめて「この1尾から何が得られるか」が見えてくる。鮮度の見極めは「いいものを選ぶ」ための目であり、保存のひと手間は「選んだ価値を守る」行為だ。スーパーの鮮魚コーナーで迷ったとき、数字のスペックより先に「今日は何尾・何個買うか」を考える習慣が、魚介選びをぐっと実用的にする。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準