この研究は、イギリスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

地中海ハーブの中で料理に使われにくいラベンダー

ローズマリー、タイム、オレガノ、セージ、ミントなど、地中海地域のハーブの多くは料理に広く使われています。ラベンダーも同じ地域のハーブですが、料理での使用は比較的まれです。近年は料理への関心が高まり、デザートや焼き菓子、飲み物などへの利用が紹介されています。それでも、ほかの地中海ハーブほどには定着していません。

本論文は、その理由を探るナラティブレビューです。ナラティブレビューとは、文献を幅広く集め、テーマごとに整理して考察する総説のことです。著者らは、歴史、化学、知覚、心理、生理、抗菌作用に関わる説明をそれぞれ取り上げて検討しました。

歴史・化学・心理の文献を横断して検討

著者らは複数の学術データベースを2026年9月23日まで検索しました。あわせて、引用をたどる方法や、歴史的な薬草書・料理書の調査も組み合わせています。最終的に、学術論文、書籍、歴史的な一次資料、規格文書、業界・製品情報などを含む198件の資料を、主要な説明ごとに整理しました。論文によれば、この手法は網羅性を主張する系統的レビューではなく、概念的な理解を深めるためのものです。

歴史的な面について、論文は次の点を紹介しています。ラベンダーは古代から薬用植物として重視されていましたが、古代ローマの料理書にはラベンダーが意味のある役割で登場しません。古代の代表的な薬物誌も、料理への利用には触れていません。ラベンダーはむしろ、入浴、香り付け、家庭での芳香用途、治療用途と強く結び付いてきました。

著者らは、同じく香りや薬用で知られたサフランが料理に定着した例と比べています。サフランには、料理を鮮やかに色付けするという代わりのききにくい役割がありました。一方、ラベンダーの色素は熱や酸性度で変わりやすく、料理への貢献は主に香りに限られる、という見方です。

中世のアラブ・ペルシャや欧州の料理では、花の香りが甘い料理にも塩味の料理にも使われていました。しかし17世紀以降の西欧では、甘味と塩味が分かれていきました。ただし、花の香りを多用した中世の料理でもラベンダーは目立ちませんでした。そのため著者らは、この変化は部分的な説明にとどまると述べています。

「食べ物ではない香り」という印象

北欧や北米の参加者を対象とした心理学研究では、ラベンダーの香りがジャスミンやスズランなどとともに「食べ物ではない香り」に分類される傾向が報告されています。著者らは、この印象を強めている可能性がある要因として、ラベンダーの香りが日用品に広く使われていることを挙げています。具体的には、石けん、シャワージェル、シャンプー、洗濯用洗剤、食器用洗剤、ルームスプレーやリネンスプレー、家具用つや出し剤などです。浴室や洗濯の場面でばかり出会う香りを料理から感じると、「石けんのよう」と受け取られやすいという考えです。ただし論文は、この仮説がまだ直接には検証されていないと明記しています。

一方、トルコではラベンダーの一種がハーブティーやシロップに使われています。イスパルタ周辺では、菓子やアイスクリーム、トルココーヒーなどの地域的なラベンダー料理も生まれています。モロッコでも、お茶やスープ、クスクスに使われる例があります。こうした例から著者らは、ラベンダーを食べ物と結び付けにくい感覚は普遍的なものではなく、文化によって異なりうると述べています。

化学的な面では、ラベンダーの主要な香り成分であるリナロールが取り上げられています。リナロールはバジルやコリアンダーにも含まれるため、ラベンダーだけに特有の成分が料理に合わないとは言いにくいとされます。むしろ、成分の濃度や他の成分との組み合わせが重要です。少量なら心地よい花の香りでも、量が多いと香水や薬のような印象になりうると説明されています。また、料理用には樟脳(カンファー)の少ないイングリッシュラベンダーが一般に使われることも紹介されています。樟脳の多い交雑種を使ったり、使いすぎたりすると、「石けんっぽさ」につながるとされます。

リラックスのイメージと食べ物とのずれ

ラベンダーの香りについては、不安やストレスを和らげる効果を報告する研究が多くあり、論文ではその知見も整理されています。ただし著者らは、濃縮された精油製剤での結果を、料理に使う少量の花にそのまま当てはめることはできないと注意しています。論文の試算では、ショートブレッド1枚あたりの精油量は、焼く前の段階でも、臨床研究で使われる製剤1カプセルより1〜2桁少ないとされています。

検討の結果、著者らは、抗菌作用や入手しやすさ、保存性の違いだけでは、ラベンダーの料理での役割が限られている理由を十分に説明できないと結論づけています。代わりに著者らが示したのは、イメージの問題です。ラベンダーはリラックスや睡眠、香りと長く結び付いてきました。このイメージが、食べ物や飲み物として口にするという考えと心理的にかみ合わない可能性があるといいます。この点は、ラベンダーの香りが他の材料に溶け込まず、それと分かる形で感じられる場合に特に当てはまるとされています。

同時に著者らは、現代の食品や飲料でラベンダーの利用が広がっていることにも触れています。そのため、こうした結び付きは固定的なものではなく、料理への利用を必ずしも妨げるものでもないと述べています。料理として受け入れられるかどうかは、どんな場面で出会うか、なじみがあるか、どの品種をどれだけの量で使い、どのように料理に取り入れるかによって左右されると考えられます。これが本論文の示す見方です。

著者:Ceyhun Uçuk(Department of Experimental Psychology, University of Oxford, Life and Mind Building, South Parks Road, Oxford OX1 3EL, UK)、Charles J. Spence(Department of Experimental Psychology, University of Oxford, Life and Mind Building, South Parks Road, Oxford OX1 3EL, UK)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ceyhun Uçuk, Charles J. Spence. Considering Culinary Use of Lavender: Sensory and Cultural Factors. Foods 2026-10-08. DOI: 10.3390/foods15193572. 原著ライセンス:CC BY.