「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」——江戸の俳人・山口素堂が詠んだこの句から三百余年、初鰹は初夏の食卓を代表する魚だ。太平洋を北上するかつおは5月を最盛期として産地に上がり、6月上旬はその名残の時期にあたる。「今年はもう食べたか」と気になり始めるこのタイミングに、改めてこの魚の中身を見てみると、さっぱりした後味の裏側に意外な充実がある。
脂は薄く、たんぱくは手厚い
初鰹のさっぱりした後味は、数値に正直に現れている。脂質は100gあたり0.5g——魚としてはきわめて少ない部類だ。秋に脂を蓄えて同じ海域に戻ってくる鰹とはここが対照的で、たたきを口に含んだ後のすっきりした感覚はこの薄さによるものだ。
その分、たんぱく質は100gあたり25.8gと高い。日本人の食事摂取基準における女性(30〜49歳)の推奨量と比べると、100gで推奨量の約52%に相当する密度だ。たたきの一人前として食べる量は概ね80〜100g程度が多く、食事の一品として置いたときのたんぱく質の貢献は十分に大きい。脂質が少なくたんぱく質が手厚いという組み合わせは、初鰹が夏前の食卓で重宝される理由のひとつだ。
普段気づかれにくいセレン
かつおで意外に目立つのがセレンだ。体内での酸化を抑える酵素の構成成分となる微量ミネラルで、普段の食事でどれだけ摂れているか意識しにくい栄養素のひとつ。かつお春獲りには100gあたり43µg含まれている。
これは日本人の食事摂取基準における女性(30〜49歳)の推奨量(25µg/日)に対して172%——推奨量の約1.7倍の密度がある。この数値は「推奨量(不足を避ける目安)」に対する割合であり、摂りすぎの目安となる耐容上限量(これ以上摂り続けると影響が出るとされる上限)に対するものではない。一般的な一人前程度では耐容上限量をはるかに下回るため、過剰を心配する必要はほぼない。
B系ビタミンが一皿にそろう
エネルギー代謝に関わるビタミンB群も充実している。ビタミンB6は100gあたり0.76mgで、推奨量の約63%。たんぱく質の利用に欠かせない補酵素(体の化学反応を助ける物質)として働くビタミンで、魚のような高たんぱくな食材と組み合わさることで特に意味を持つ栄養素だ。ナイアシンも100gあたり19mg含まれ、同じく代謝に欠かせないビタミンB群の一つ。たんぱく質とB系ビタミンがひとつの食材にそろう構成が、初鰹の特徴のひとつだ。
名残の初鰹、6月上旬の食べ方
食べ方の王道はたたきだ。皮を炙り、生姜・みょうが・青じそを合わせてポン酢でいただく土佐風が定番。塩と薄切りにんにくを添えていただく塩たたきスタイルも、素材の味を直接感じられると人気がある。刺身として食べるなら、柑橘の酸味を使うと醤油を減らしても満足感が出やすい。食塩相当量が100gあたり0.1gと低い素材なので、調味の選択肢は広い。
6月上旬を過ぎると初鰹の産地出荷は一段落し、次に楽しめるのは秋の戻り鰹になる。スーパーや鮮魚店で「春かつお」の文字を見かけたら、今季最後の機会かもしれない。名残の一皿を今年の締めにするのも、旬を楽しむ食卓の一つの形だ。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。