「鉄といえばほうれん草」。この組み合わせが定番として語られてきた。ところが成分表を開くと、豚レバー(生)の鉄は100gあたり13mg。ほうれん草(生)の2.0mgと並べると、同じ100gで6.5倍の開きがある。「鉄の顔」として思い描いていた食品が、実は6品のなかでも下位グループに来る——この数字の逆転が、今日の話の起点だ。
レバー2種:鉄の量の違い
豚レバーの鉄13mgに対し、牛レバー(生)は100gあたり4.0mg。どちらも鉄の含有量が高い食品だが、豚の方が3倍以上多い。レバーは一度に多くは食べない食品なので、実際に食べる量で考えるといい。レバにら炒め1人分は豚レバー約50gが目安とされており、この量で鉄は約6.5mg。鉄の日本人の食事摂取基準では、推奨量は成人男性(30〜49歳)で7.5mg、同年代の女性(月経なし)で6.0mg。月経のある女性では10.5mgと高くなる。一食でこれだけ確保できる含有量は際立っている。
ただし、レバーはビタミンA(レチノール)も突出して多い。豚レバーの可食部100gあたりにはレチノールが13000µg含まれ、ビタミンAには耐容上限量が定められている。レバにら炒め1人分(約50g)でもビタミンAの耐容上限量を超える量のレチノールを含むため、週1〜2回程度を目安にするなど摂りすぎに注意したい。牛レバー(レチノール1100µg)も動物性のビタミンA源なので、同じように量を意識しておくと安心だ。
もう一つ見逃せないのは、両レバーに葉酸とビタミンB12がそろっていることだ。葉酸は核酸の生合成に関わり、赤血球の形成や胎児の発育に関わるとされる。ビタミンB12はアミノ酸や核酸の代謝に関わり、赤血球(ヘモグロビン)の形成を助けるとされる。この二つは協力して赤血球づくりに関わるため、両方そろっていることに意味がある——その両方を一皿で補えるのがレバーという食品の構造だ。
かつおと納豆:鉄の「脇役」に回るとき
かつお(春獲り・生)の鉄は100gあたり1.9mg。1さく(背側)250gで換算すると約4.8mgになるが、これはあくまで100gあたりからの単純換算の概算だ。かつおで注目したいのはむしろたんぱく質25.8gとナイアシン19mgの高さで、たんぱく質を豊富に含む食品として位置づけると使い勝手が広がる。
糸引き納豆の鉄は100gあたり3.3mg。1パック40gで約1.3mg。数値だけ見るとレバーには遠く及ばないが、納豆が持つビタミンK(100gあたり600µg)と葉酸(120µg)は別の役を担う。ビタミンKは正常な血液凝固を維持し、骨の形成にも関わるとされる。葉酸は赤血球の形成や胎児の発育に関わるとされる。鉄を目的に選ぶ食品ではないが、葉酸を補う文脈では朝食の1パックが実働する。
こんぶ:数字の落とし穴
まこんぶ(素干し・乾)の鉄は100gあたり3.2mg。ここで注意が必要なのは「素干し乾100g」という基準だ。5cm角の切り昆布は約2g、素干し10cm角1枚でも約10g——だしを取る日常の使用量はせいぜい数gで、100g単位で食べることはない。鉄の数値は乾物100gあたりのものであり、実際の摂取量はごく少量にとどまる。こんぶは鉄の供給源として計算するより、ヨウ素・カリウム・マグネシウムを補う使い方に向いている食品だ。
ほうれん草:期待の後ろ姿
そして、最後にほうれん草を見てみよう。鉄は100gあたり2.0mg、1束200gで約4.0mg。豚レバー100gの鉄13mgと100gあたりで並べると6.5倍の開きがある。ほうれん草の持ち場は別にある——β-カロテンが100gあたり4200µg(体内でビタミンAに変わるプロビタミンA)、ビタミンKが270µg、葉酸が210µg。色のある緑黄色野菜としての役を担う方が、鉄の数値を期待するより実用的だ。
一点だけ扱い方の注意がある。ほうれん草にはシュウ酸が100gあたり0.7g含まれており、えぐ味(アク)のもとになる。水に溶けやすいため、茹でて水にさらすと減らせるとされるので、下茹でしてから使いたい。茹でる前に切るとビタミンCが流れやすいため、葉のついたままゆでるのが基本だ。
6品を手元に——今日の選び方
数字を並べ直すと、6品の立ち位置がくっきり変わる。
- 鉄の含有量が高い:豚レバー(13mg)>牛レバー(4.0mg)。意識して摂りたいときの優先候補。
- 鉄+葉酸・B12を一緒に:どちらのレバーも葉酸とビタミンB12がそろう。
- たんぱく質と合わせる:かつおは鉄より高たんぱく・低脂質が際立つ。
- 葉酸・ビタミンKを朝に:納豆1パックが小さな補給になる。
- β-カロテン・ビタミンK:ほうれん草の本領はこちら。
- こんぶは少量の風味づけで:乾物100g基準の数値と実際の使用量のギャップを頭に入れて。
「鉄はほうれん草で」から「今日は何から取るか」に問いを変えると、食卓の組み立てが少し変わる。6品の実数を一度頭に入れておけば、スーパーの棚の前で迷う時間が減るはずだ。どの食品が一番優れているかではなく、どれをいつ組み合わせるかが、実際の食事では効いてくる。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、厚生労働省 食事摂取基準に基づきます。