鶏に何を食べさせるかで、卵の成分が変わる。その卵を材料にしたクラッカーを毎日のおやつとして70日間食べ続けると、体の代謝指標に変化は起きるのか――。そんな一連の連鎖を実験で検証した研究が、2026年6月にクリニカルニュートリション ESPENに発表されました。

注目されたのは4種類の多価不飽和脂肪酸

脂質には飽和・一価不飽和・多価不飽和という種類があります。このうち多価不飽和脂肪酸(PUFA)には、体内でほとんど合成できない「必須脂肪酸」が含まれ、食事からの摂取が重要とされています。今回の研究が着目したのは4種のPUFA:植物性食品に多く含まれるα-リノレン酸(ALA)、主に魚介類に由来するドコサヘキサエン酸(DHA)、反芻動物の乳や肉に含まれるルメン酸(RmA)、そしてザクロ種子油に含まれるプニカ酸(PunA)です。これらは複数の代謝異常の予防・改善に関与する可能性があると考えられており、研究チームはその検証に取り組みました。

飼料→卵→クラッカーという設計の妙

研究の工夫は「届け方」にあります。飼料を調整してALA・DHA・RmA・PunAを多く含む卵を産む鶏を育て、その鶏卵を材料にしたクラッカーを作製しました(対照群には、一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸で強化した卵を使ったクラッカーが提供されました)。

過体重で腹部肥満のある25人がそれぞれのクラッカーを1日約67.5gずつ、午後のおやつとして70日間食べ続けました。参加者も研究者もどちらのグループか知らない二重盲検の設計で、ウエスト周囲径・血液バイオマーカー・体組成・肝臓の画像・満腹感などが繰り返し測定されました。論文タイトルには「代謝パラメータの改善への効果」と記されており、PUFAをクラッカーへ組み込む実現可能性と忍容性も確認されたと報告されています。ただし対象者は25人と小規模であり、結果は「ある条件での報告」として受け取ることが大切です。

日本の食卓に見るPUFAの供給源

研究が着目したALAやDHAは、身近な食材にも含まれています。植物性のn-3系多価不飽和脂肪酸源として知られるえごま(乾)は、100gあたりn-3系多価不飽和脂肪酸が23.7g。日本人の食事摂取基準の女性30〜49歳の目安量1.7g/日と比べると、100gあたりでは約14倍の密度に相当します。とはいえ、乾燥種子を100gそのまま食べることはなく、料理に使う量はごく少量(数g程度)が一般的です。小さじ1杯(約5g)では、約1.2gが単純換算上の目安となります。

魚ではまいわし(生干し)が100gあたりn-3系多価不飽和脂肪酸3.12g(目安量1.7g/日の184%)。1尾の可食部はサイズにより異なり、一般的に50〜80g程度が概算の目安とされます。その場合の換算値は約1.6〜2.5g程度となります(100gあたり実測値からの単純計算)。

ナッツ類ではくるみ(いり)が、100gあたりn-3系8.96g・n-6系41.32gと、n-3・n-6両方のPUFAを含む特徴があります。一度に食べる量は多くなく、数粒〜ひとつかみ程度(約20〜30g)が一般的な目安です。

手軽に取り入れるヒント

えごまは和え物やドレッシング、ご飯のふりかけとして少量ずつ使うのが現実的な方法です。くるみはそのままおやつに、またはサラダやヨーグルトのトッピングとして取り入れやすい食材です。まいわしの生干しはシンプルに焼くだけで食卓に並べられます。n-3系・n-6系といったPUFAの種類やバランスも含め、特定の食品に偏らず多様な食材を組み合わせることが、食事全体の質を底上げすることにつながると考えられています。

「どの脂肪酸を摂るか」という問いの面白さ

この研究が興味深いのは、鶏の飼料から卵、そしてクラッカーへという独自の経路で「特定のPUFAを日常のおやつから届けられるか」を問うた発想にあります。まだ規模の小さな報告ですが、脂質を「量」だけでなく「種類」で考えてみる視点は、食の選択肢を少し広げてくれます。主食・主菜・副菜のバランスを基本としながら、日々の食材選びにそっと新しい軸を加えてみる――この研究は、そんな小さなきっかけになるかもしれません。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。参考文献:Effects of crackers enriched with polyunsaturated fatty acids with benefits for improving metabolic parameters: a double-blind randomised controlled trial in subjects with overweight(クリニカルニュートリション ESPEN(2026-06-02))