この研究は、オーストラリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Talanta
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
茶葉に含まれるセレンを、正確かつ高い感度で測るのは簡単ではありません。著者らは、その理由として二つを挙げています。一つは、セレンが自然界にわずかしか存在しないことです。もう一つは、茶葉そのものに由来する成分が測定値を乱す「スペクトル干渉」が起こることです。
この研究チームは、「誘導結合プラズマ・トリプル四重極質量分析(ICP-QQQ-MS)」という装置に注目しました。この装置では、測定の途中にある「セル」と呼ばれる部分に気体を流します。研究チームは、このセルに流す気体の種類や条件を変えると、茶葉中のセレンを同位体ごとに測る精度がどう変わるかを調べました。
何を比べたのか
ICP-QQQ-MSでは、試料を高温のプラズマでイオンにし、イオンを質量ごとに分けて数えます。ただし、ほかの元素どうしが結びついてできた「多原子イオン」などが、測りたいセレンと同じ質量に現れることがあります。そうすると、実際より多く見積もられてしまいます。セルに気体を入れるのは、こうした邪魔なイオンを衝突や化学反応によって取り除いたり、区別したりするためです。
研究チームは、セレンの4種類の同位体(質量数77、78、80、82)を対象にしました。セルに流す条件は、ヘリウム(He)、流量を高めたヘリウム(HEHe)、水素(H2)、酸素(O2)、酸素と水素の併用(O2+H2)の5通りです。結果は「回収率」で評価しました。回収率は、本来あるはずの量に対して実際に測れた量の割合です。100%に近いほど正確で、100%を大きく超えると過大評価を意味します。
主な結果
ヘリウムモードは精度が低く、回収率は125.82〜318.37%と大幅に過大でした。著者らは、邪魔な多原子イオンが取り除けていないためだと考えています。ヘリウムの流量を増やすと回収率は91.28〜127.59%まで改善しましたが、同位体によるばらつきが残りました。
水素モードでは、回収率が92.43〜104.48%と許容できる範囲に収まりました。セレン本来の質量でそのまま測る方法でも、干渉を効果的に取り除けたことになります。
酸素を使う二つのモード(O2、O2+H2)では、別の工夫をしています。セレンのイオンを酸素と反応させて酸化セレンのイオン(SeO+)に変え、元より重い質量の位置で測ります。こうすると、希土類元素に関係する干渉と直接質量が重なるのを減らせます。論文はこの方法によって選択性がさらに高まったと報告しています。
最適化した方法の検出下限は0.011〜0.71 μg/L、定量下限は0.039〜2.35 μg/Lでした。正確さは、セレン含有量の認証値(0.090 ± 0.030 μg/g)が定められた緑茶の標準物質を測って確かめています。測定値は認証値と一致しました。研究チームはさらに実際の茶葉試料にもこの方法を適用し、成分の複雑な植物試料でもセレンを信頼性高く定量できたと報告しています。
研究が示すこと
著者らは、茶葉中のセレンを正確に定量するには、セルに流す気体の条件と、どの同位体を測るかの選択が欠かせないと結論づけています。これらの選択は感度にも影響します。同じ装置を使っても条件次第で測定値が大きく変わりうることを、具体的な比較で示した研究です。論文は、この手法が茶の分析の土台となり、ほかの植物試料にも応用できる可能性があると述べています。
著者:Ziqi Qi(School of Agriculture, Food and Ecosystem Sciences, Faculty of Science, The University of Melbourne, Parkville, VIC, 3010, Australia)、Ken Ng(School of Agriculture, Food and Ecosystem Sciences, Faculty of Science, The University of Melbourne, Parkville, VIC, 3010, Australia)、Xiaofei Alex Duan(Melbourne TrACEES Platform, School of Chemistry, Faculty of Science, The University of Melbourne, Parkville, VIC, 3010, Australia. Electronic address: [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ziqi Qi, Ken Ng, Xiaofei Alex Duan. Investigation of cell gas modes for accurate selenium isotopes analysis in tea leaves using ICP-QQQ-MS. Talanta 2026-09-24. DOI: 10.1016/j.talanta.2026.130669. 原著ライセンス:CC BY.