細かく密に走る骨を包丁で断ち切る「骨切り」の技術なしには食べられない——はも 生とはそういう魚だ。その仕事を経てはじめて、白身がなめらかに口の中でほどける。
六月の上旬は走り。旬の本番は七月の祇園祭の頃で、京都や大阪ではこの時期の食卓にはもが欠かせない存在として語り継がれてきた。市場に出回り始め、料理屋の品書きに顔を出す季節が、ちょうど今だ。
淡白な白身に、22.3gのたんぱく質
一口食べると、白くてあっさりした印象が先に来る。ところが可食部100gあたりのたんぱく質は22.3g。日本人の食事摂取基準における30〜49歳女性の推奨量(50g/日)の45%に相当する量だ。脂質は5.3g、食塩相当量は0.2g(同年代女性の目標量上限6.5g/日の3%)。あっさりとした味わいは、数字の上でも裏づけられる。
ご飯が苦手とするアミノ酸を、はもは持つ
この食品で特に含有量が多い栄養素として挙げられるのが、アミノ酸のリジン(リシン)——可食部100gあたり2300mgだ。
リジンは、体内でつくることができないため食事から摂る必要がある「必須アミノ酸」の一つ。食事摂取基準でも必要量が示されており、たんぱく質合成の材料として体が必要とする成分だ。
ここで少し面白い話がある。日本人の主食である白米のたんぱく質は、リジンが相対的に少ないことで知られており、栄養学では「第一制限アミノ酸」と呼ばれる。一番少ないアミノ酸がたんぱく質の質のボトルネックになる、という考え方だ。魚はリジンを多く含む傾向があり、はもも例外ではない。ご飯と魚を組み合わせる日本食の食卓は、こうした観点からも、異なるたんぱく質の特性が補い合う組み合わせになっている。
一人前の目安を約80〜100g程度とすれば、リジンは約1,800〜2,300mg程度になる(100gあたりの実測値からの換算で、あくまで概算)。
走りのはもを、湯引きで
六月のはもで試してほしい食べ方として、湯引き(ゆびき)がある。骨切りされた身を熱湯にさっと通すと、白く花びらのように反り返る。氷水でしっかり締め、梅肉醤油でいただく。ちょうど青梅が店頭に並ぶこの時期、梅の酸みとはもの白身はよく合う。
鍋やしゃぶしゃぶにするのも手軽だ。昆布だしに薄口醤油を少し落とすだけで、はもの淡白なうまみがやさしく引き立つ。
七月を待たずに
盛りは祇園祭の頃、とよく言われるはもだが、走りには走りなりの良さがある。まだ暑さが本格化しない六月に、骨切りが生む食感と、リジン2300mgを持つたんぱく質を先に楽しんでみてはどうだろう。七月の本番まで待つのは、少しもったいない気がする。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。