日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
論考の目的
サプリメントのラベルでは「吸収が高まる」「体内利用率が向上」といった表現が増えています。その根拠として多く使われているのが、黒コショウ抽出物とその主成分であるピペリンです。ピペリンは、一緒にとった成分の体内利用を高める「バイオエンハンサー」として販売されています。代表例はウコンの成分クルクミンとの組み合わせです。広く引用される研究では、ピペリン20mgによってクルクミンの血中濃度が約2,000%上昇したと報告されています。
この論考(パースペクティブ)で著者は、ピペリンが複数成分を含むサプリメントに妥当な配合理由のないまま加えられていることが多いと主張しています。その一例として、著者の観察では、日本の医療機関専売サプリメントにもピペリンが使われるようになっています。また、2024年に機能性表示食品に関連する健康被害が起きて以降、サプリメントの安全性への関心が高まっています。2026年9月1日からは、機能性表示食品に適正製造規範(GMP)の遵守が義務づけられました。著者はこうした日本の状況を、「吸収促進」の宣伝と科学的な配合理由とのずれを考える好機と位置づけています。著者は、目的は特定の製品や企業を批判することではないとしています。身近な成分を例に、業界全体に共通する問題を示すことが狙いだと述べています。
ピペリンは「吸収」ではなく「代謝」に作用する
著者はまず、ピペリンの働き方を整理しています。ピペリンは腸での吸収を助けるのではありません。体が成分を分解・排出する働きを抑えることで、血中濃度を上げていると説明しています。具体的には、薬物代謝酵素であるCYP3A4とCYP2C9、そして細胞から物質をくみ出す運搬体であるP糖タンパク質を阻害するとされます。このうちCYP2C9の阻害は、相互作用の研究から推定されたものです。
CYP3A4やP糖タンパク質は、飲み薬の多くの処理にも関わっています。そのため、ピペリンの作用は狙った栄養素だけには限られず、同時に飲んでいる医薬品の血中濃度も変えうると著者は指摘します。仕組みとしては、グレープフルーツジュースやセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)による飲食物と薬の相互作用に近いといいます。特に注意が必要なのは、有効な量と有害な量の幅が狭い薬です。抗てんかん薬のフェニトインやカルバマゼピンなどがこれにあたり、わずかな濃度上昇でも副作用につながりうるとされています。一方で著者は、料理に使う程度の黒コショウが臨床的に重要な相互作用を起こすかどうかは不明だとしています。懸念の対象は、濃縮したピペリンを毎日まとめて摂取するサプリメント特有の摂り方だとしています。
22件のヒト研究から見えた「非対称性」
著者は、ピペリンを栄養素や医薬品と併用した22件のヒト薬物動態研究を集めて整理しました。薬物動態研究とは、成分が体内でどのように吸収・代謝・排出されるかを調べる研究です。著者は各研究を、研究者の所属や資金源ごとに分類しました。この検索は手順を定めて行われましたが、正式なシステマティックレビューではないと著者は明記しています。
整理の結果、三つの傾向が示されました。第一に、栄養素などの吸収向上を報告した研究は、2025年の1件を除き、ピペリン原料メーカーが実施または資金提供したものでした。これらは少人数の健康な人を対象とし、血中濃度を代わりの指標として用いていました。よく引用される約2,000%という数字も、クルクミン単独ではほとんど検出できないほど低い値を基準に計算されたものでした。
第二に、ピペリン原料メーカーが関与していない研究では、栄養素側の吸収向上はおおむね確認されませんでした。クルクミンの三つの試験では、ピペリン入りの製剤と通常のクルクミンとの間に有意な差はありませんでした。ただし、このうち1件は別のクルクミン製剤のメーカーによる試験です。一方、ミセル化やシクロデキストリン包接のように溶けやすさを改善した製剤は、ある試験で30〜57倍の高い血中濃度を示しました。レスベラトロールでも、ピペリン20mgで血中濃度は変わりませんでした。ただし著者は、これらの試験は小さな効果を否定できる規模ではなかったとしています。また、測定法の進歩が結果の違いの一部を説明しうるとも述べています。
第三に、処方薬との相互作用研究は主に大学などの臨床薬理部門によるものです。これらでは、14件中12件で併用した薬の血中濃度が上昇していました。たとえば健康な人では、ピペリン20mgを10日間とるとカルバマゼピンの血中総量が約48%増え、鎮痛薬ジクロフェナクでは約66%増えたと報告されています。一方で、例外もありました。乳がん患者では、クルクミンとピペリンの併用で、タモキシフェンの活性代謝物エンドキシフェンの量が12.4%減少していました。この結果から著者は、相互作用の方向が常に「増加」とは限らないことを強調しています。
著者はこの差を、論考の中心となる「非対称性」と呼んでいます。栄養素側の効果は、一部の化学形を対象とした原料メーカー関連の研究に限られており、独立した再現はありません。これに対し、医薬品の血中濃度を上げる作用は、商業的利害が確認されない複数の研究グループで繰り返し示されているということです。
サプリメントの組み合わせと肝障害への懸念
著者は、気づかないうちに成分が組み合わさる危険にも触れています。クルクミンは、関節や肌、腸、肝臓向けの複合サプリメントに少量含まれることがよくあります。そのため、本人は「ウコンを飲んでいる」つもりがなくても、別のピペリン入り製品と重ねることで、ウコンとピペリンの組み合わせを知らずにとっている場合があります。
米国の登録データでは、ウコン関連とされた肝障害10例のうち5例が入院し、1例が死亡しました。分析された7製品のうち3製品にはピペリンも含まれていました。著者は、因果関係は証明されておらず、発生頻度そのものは低いとみられることも併せて紹介しています。
配合の根拠と、表示・製造管理の限界
著者はピペリンの使用そのものを否定してはいません。妥当な配合といえる条件として、次の四つを挙げています。一つ目は、対象成分の吸収の弱点が、溶けにくさではなく代謝や排出によるものであることです。二つ目は、製品と同じ化学形と用量で、できれば供給元から独立した研究者により、ヒトでの効果が示されていることです。三つ目は、対象者が定められていて、有効域の狭い薬を飲む人が日常的に使う前提になっていないことです。四つ目は、ピペリンの量が効果の示された最小量であり、相互作用の注意とともに表示されていることです。ただし、現在の栄養素の組み合わせで二つ目の条件を満たすものは少ないと著者は述べています。
また著者は、「医療機関専売」という表示は販売上の区分にすぎず、配合の妥当性を保証するものではないと指摘します。新たに義務化されたGMPについても、製造の一貫性や異物混入の防止、表示どおりの成分を含むことは保証するとしています。しかし、どの成分をどれだけ、何の目的で組み合わせるかという配合の妥当性は扱わないと述べています。処方薬を使う人への注意喚起表示は必要で、著者もその導入を支持しています。そのうえで、相互作用の方向が予測できない場合や、複数製品を重ねて使う場合には、表示だけでは対応しきれないとしています。
この論考は、サプリメントの配合を流行の成分の寄せ集めではなく、専門的な判断に基づく仕事として捉え直すよう求めています。著者の言葉では、表示はリスクを管理するものであり、配合の根拠こそがそのリスクを抱える必要があるかどうかを決めるということです。
著者:Masaki Kaneko(KYB Medical Service Co., Ltd., Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Masaki Kaneko. Enhancement without a rationale? Black pepper extract (piperine) in dietary supplements and the future of formulation: a perspective from Japan. Frontiers in Nutrition 2026-10-16. DOI: 10.3389/fnut.2026.1981406. 原著ライセンス:CC BY.