食べたものが腸でどう変わり、肝臓にどう届くのか。その「腸と肝臓の対話」を解き明かそうとする研究が、いま世界各地で進んでいます。2026年、中国の伝統的な薬用・食用植物であるナルコユリ(学名:Polygonatum cyrtonema)の多糖類(植物が持つ複合糖質の一種)を使った動物実験が、専門誌「フード・フロンティアーズ」に報告されました。その内容は、腸内環境と肝臓の健康が思いのほか深く結びついていることを示唆する、興味深いものです。
研究でわかってきたこと
研究チームは、ナルコユリの多糖類(以下PCP)を腸内細菌によって発酵させると、特定の代謝物が生成されることを確認しました。その代謝物の混合物を、アルコール性肝障害のモデル動物に与えたところ、典型的な肝障害の症状や肝臓への脂肪蓄積が和らぐ傾向が報告されています。
注目されたのは、腸内細菌の構成の変化です。PCP由来の代謝物を与えた群では、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)というビフィズス菌の一種の割合が特異的に増え、この菌の増加が肝障害の指標と逆の方向に関連していたと報告されています。つまり「この菌が多い状態と肝臓の状態が関連していた」という観察であり、因果関係の確立には今後の研究が必要ですが、腸内細菌と肝臓をつなぐ「腸肝軸」と呼ばれる経路が関与している可能性が示唆されています。
さらに詳しい解析では、腸の炎症に関わるある脂質代謝物の腸内濃度が低下し、それが肝臓の炎症シグナルの抑制につながっている可能性も示されています。上記のビフィズス菌単独でも同様の保護的効果が観察されたといい、研究チームは「腸内環境の変化が肝臓の状態に影響する経路の一端を示せた」と述べています。
ただし、これはあくまで動物実験の段階での報告です。特定の食品や成分が肝臓の疾患を予防・治療するという意味ではなく、「ある条件下でこうした傾向が見られた」という研究の一歩として受け取ることが大切です。
食物繊維と腸内細菌―日常の食事との接点
特定の食品がアルコール性肝障害を予防したりリスクを下げたりするものではありません。ただ、この研究が注目した「多糖類→腸内細菌→肝臓」という流れは、毎日の食事と腸内環境の関係を考えるひとつの視点になります。
多糖類は食物繊維の仲間であり、腸内細菌のエサとなって腸内環境を整える働きに関わるとされています(日本人の食事摂取基準でも食物繊維の摂取目標量が設定されています)。日本人の食事でなじみ深い食物繊維源として、今回提供されたデータをもとにいくつか紹介します。
糸引き納豆は、可食部100gあたり食物繊維総量9.5gを含み、これは女性(30〜49歳)の1日の目標量18gの53%にあたります。1パック(約100g)でその量をそのまま摂れる計算になりますが、数値は100gあたりのもので、あくまで目安です。水溶性食物繊維も2.3g含まれています。
押麦(乾)は可食部100gあたり食物繊維総量12.2g(同目標量の68%)、水溶性食物繊維4.3gを含みます。ただしこれは乾燥状態での数値であり、炊いてご飯に混ぜる際には実際の摂取量はずっと少なくなります。
ごぼう(根・生)は100gあたり食物繊維総量5.7g(同32%)で、水溶性食物繊維2.3gを含みます。きんぴらなど1人分(約40g)に換算すると食物繊維は約2.3gほどです。食物繊維を多く含む食材として日本の食卓に古くから親しまれてきた野菜です。
これらの食品を食べることで腸内細菌が特定の方向に変化するとは言い切れませんが、食物繊維を日常的に摂ることは腸内環境を整えるうえで重要とされており、上記の食品はその一助になりうる食材です。
日々の食事に取り入れるヒント
今回の研究は「腸と肝臓のつながり」という視点を改めて照らし出してくれます。特定の食材に頼るよりも、日々の食事で食物繊維をさまざまな食品から少しずつとることが、腸内細菌の多様性を保つ基本とされています。
- 麦飯や麦入りご飯として押麦を取り入れる(乾燥時の数値は一度に食べる量とは別)
- 納豆を朝食に1パック。納豆菌も含み、腸にとってなじみ深い発酵食品のひとつ
- きんぴらごぼうや汁物の具など、ごぼうを週に数回の食卓へ
- 全脂無糖ヨーグルトはカップ1杯(約210g)で乳酸などの有機酸を含む発酵食品として、食物繊維の多い食品と組み合わせるのも一案です
おわりに
「腸が肝臓に話しかけている」――今回の研究は、そんな体の内側の対話の一端を動物実験で可視化しようとした試みです。腸内細菌の研究はまだ発展途上にあり、ヒトでの効果の確認にはさらなる研究が必要です。しかし、毎日の食事で腸内環境を意識することの意味を、あらためて考えさせてくれる報告といえるでしょう。特定の食品に頼るのではなく、食物繊維や発酵食品を含むバランスのよい食生活を積み重ねることは、こうした研究が積み上げようとしている知見の方向性とも重なる部分があります。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。参考文献:Polygonatum cyrtonema Polysaccharides‐Derived Metabolic Meta Alleviates ALD via a Gut–Liver Axis–Mediated, Bifidobacterium pseudolongum–Driven Suppression of the AA Metabolism–MAPK Signaling Network(フード・フロンティアーズ(2026-07-01))
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準・文部科学省 食品成分データベース・消費者庁・食品安全委員会