「魚をちゃんと食べているのに、ビタミンDが不足気味と言われた」――そんな経験はないでしょうか。実は、食品に含まれるビタミンDの量を正確に把握することは、栄養科学の世界でいまも活発に研究されているテーマです。2026年5月、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)の研究チームが、食品中のビタミンDをより精密に測定するための手法と標準試料の開発に関する論文を発表しました。

研究でわかってきたこと

今回の研究では、食事から摂取するビタミンDの量と、血液検査で測定される体内のビタミンD状態との間に、しばしばギャップが生じることが問題意識の出発点となっています。その原因の一つとして注目されているのが、25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)と呼ばれる代謝物の存在です。

ビタミンDは体内で段階的に変換されて活性化しますが、食品にはビタミンD本体だけでなく、すでに一段階変換された25(OH)Dも含まれていることがあります。この25(OH)Dは、通常のビタミンDと比べて体内で利用されやすい可能性が示唆されており、食品中の含有量を正確に把握することが栄養評価の精度向上につながると報告されています。

しかし、食品中の25(OH)Dに関するデータはこれまで非常に限られていました。そこでNISTは、同位体希釈液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(ID LC-MS/MS)という高精度な分析手法を用いて、複数の食品マトリックス標準試料にビタミンDおよび25(OH)Dの公式値を付与することに取り組みました。標準試料とは、分析機器の精度を確認・校正するための基準となる試料のことで、この整備によって世界中の分析機関がより統一された方法でビタミンD関連成分を測定できるようになると期待されています。食品データベースの精度が向上すれば、将来的に私たちの栄養摂取量の評価もより正確なものになる可能性があります。

ビタミンDとはどんな栄養素か

今回の研究が焦点を当てるビタミンDは、脂溶性ビタミンの一種で、魚類・卵・きのこ類などに多く含まれることが一般に知られています。最新の日本人の食事摂取基準(厚生労働省)でも摂取基準が設定されている重要な栄養素です。

今回の研究が示すように、食品中のビタミンD関連成分の測定精度が向上することで、加工食品を含む幅広い食品のデータも、将来的にはより精密な値が示されるようになる可能性があります。食品ごとのビタミンD含有量が気になる方は、食品群一覧から様々な食品のデータを比較してみるのもよいでしょう。

日々の食事に取り入れるヒント

ビタミンDは脂溶性ビタミンであるため、食事中の脂質と同時に摂ることで吸収されやすくなるとされています。魚のソテーや卵料理など、適度な油脂を使った調理法はその性質を自然に活かせる食べ方のひとつです。ただし、調理に油脂を使う場合はエネルギー量も変わるため、野菜や汁物と組み合わせて全体のバランスを意識することがポイントです。

また、ビタミンDは食事からだけでなく、日光(紫外線)を皮膚が浴びることで体内でも産生されます。食事と生活習慣の両面から意識することが、栄養バランスを考えるうえで重要です。

日頃の食事では、特定の食品に頼りすぎず、魚・卵・きのこ類などビタミンDを含む食品を日替わりで取り入れることが、無理なく継続できる食習慣づくりにつながります。

食品の栄養成分データは、私たちの食習慣をサポートする重要な基盤です。今回紹介したNISTの研究のように、測定技術と標準試料の整備が進むことで、食品データベースはますます精緻になっていきます。日々の食卓に多様な食材を取り入れながら、栄養バランスのよい食生活を楽しみましょう。

参考文献:Value Assignment of Vitamin D and 25-Hydroxyvitamin D in Food-Matrix Standard Reference Materials (SRMs) Using Isotope Dilution Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry (ID LC-MS/MS)(農業および食品化学誌(2026-05-13))

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。