6月も中旬を過ぎ、梅雨の合間に夏の気配がじわりと押し寄せてくる。冷たいものを口にする機会が増え、食欲が乱れがちなこの時季、実は体の中では「エネルギーを生み出す力」がひそかに問われている。ご飯・パン・麺といった糖質をエネルギーに変える代謝の舞台裏では、ビタミンB1が補酵素として働いている。夏の食事を考えるとき、このB1をどれだけ摂れているかは、意外と見えにくい。

そこで今、食卓に引っ張り出したい肉がある。豚もも赤身だ。鹿児島・宮崎を主な産地とする国内の豚は、年間を通じて安定供給されているが、夏の体に合わせて食べ方を見直す価値が大きい一枚でもある。

3〜4枚(約100g)で、1日推奨量をほぼ満たせるB1が摂れる

豚もも赤身100gに含まれるビタミンB1は0.96mg。日本人の食事摂取基準(成人女性30〜49歳の推奨量0.9mg/日を例にとると)をほぼ満たせる数値だ。スーパーで売られている薄切り豚もも1枚は、商品によって異なるが目安としておよそ30g。3〜4枚を炒めれば100gに近づく、ごくふつうの一人前で、1日分の目安をほぼカバーできる計算になる。日々の夕食一皿で、これだけのB1を取れる食品はそう多くない。なお、妊婦・授乳婦はB1の必要量が上乗せされるため、同じ一皿で1日分を補えるとは限らない点に留意したい。

同じ部位ながらもも赤身は脂質が100gあたり3.6gとおだやかで、たんぱく質は22.1g。エネルギーは119kcalと軽い。赤身ならではの締まった食感が、夏の料理にもきりっと映える。

にんにく・玉ねぎと組むと、吸収がさらに高まるとされる

豚肉とにんにくの組み合わせは、料理として古くから親しまれてきた。栄養の観点から見ると、にんにくや玉ねぎに含まれる硫化アリル(アリシンなど)という成分が、ビタミンB1の吸収を助ける働きがあるとされている。豚のしょうが焼きににんにくを足す、にんにく炒めにする——そういった日常の選択が、B1を無駄なく活かす食べ方につながるとされる理由はここにある。

ただし、ビタミンB1は水溶性。肉を長く水にさらすとせっかくの成分が逃げてしまいやすい。下ごしらえはさっと。加熱はさっと。それだけで、一皿の価値が変わる。

今夜、豚もも赤身を食卓へ

一番手軽なのは、にんにく・玉ねぎをたっぷり使った豚もも炒めだ。薄切り肉を強火でさっと炒め、みりんと醤油で仕上げるだけで、香ばしさとうまみが立つ夏らしい一皿になる。生姜焼きのたれに刻みにんにくをひとかけ忍ばせるのも、B1とこれらの成分をいっしょに取る理由を思えばいっそう合点がいく。

豚とにんにくと夏の夕飯——組み合わせとしては何の変哲もない。でも、その一皿がこれだけのB1を運んでくれると知ると、献立を決める手が少し軽くなる気がする。梅雨の合間に、今夜はそんな「体を動かすための一皿」を作ってみてはどうだろう。

栄養データ出典:日本食品標準成分表(八訂)/日本人の食事摂取基準

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。