著者の所属・活動拠点の国は、タイ、ラオスです。

掲載誌:Life

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

散らばった知見をひとつにまとめる

キクラゲの仲間(アウリクラリア属)は、耳のような形とぷるぷるした食感を持つきのこです。世界、とくにアジアで経済的に重要な食用・薬用きのこのひとつに数えられます。分類や栽培方法、含まれる生理活性物質についての研究は数多くあります。しかし著者らによれば、それらの情報は分野ごとに分かれており、きのこの生物学的な特徴から持続可能な生産までを通して見渡せるまとめは限られていました。

そこで研究チームは、既存の研究を集めて整理し、論じる総説をまとめました。新しい実験を行ったのではなく、これまでの文献を対象にしています。扱う範囲は、分類と多様性、生態、栽培技術(菌の培養条件、種菌の作り方、培地の改良、環境管理)、農業・林業の残さを培地として使う取り組み、栄養成分と生理活性物質、そして病害虫や今後の課題です。中でも、栽培システムの最近の進展に重点が置かれています。

野生のきのことしての姿

キクラゲ類は熱帯から温帯まで広く分布し、枯れ枝や倒木、切り株など、枯れたり朽ちたりした木の上に生えます。菌糸は酵素を出して、木材の主成分であるリグノセルロースを分解し、栄養として取り込みます。リグノセルロースとは、セルロースやリグニンなどからなる植物の丈夫な繊維質です。この働きによって、キクラゲ類は森の中の物質循環にも関わっていると紹介されています。

分類については、形態の観察と複数の遺伝子を用いた系統解析により、現在世界で37種が認められていると総説はまとめています。以前は、よく栽培される2種がそれぞれ「アウリクラリア・アウリクラ‐ユダエ」「アウリクラリア・ポリトリカ」と呼ばれていました。その後の再検討で、中国などアジアで前者とされていた集団はヨーロッパのものとは別種とされ、「アウリクラリア・ヘイムエル」として扱われるようになりました。後者は「アウリクラリア・コルネア」とされています。著者らは、各国で商業栽培されている系統が分類上どの種に当たるのかを、さらに確かめる必要があると指摘しています。

栽培技術はどう変わってきたか

総説によると、キクラゲ類の栽培には千年を超える歴史があり、7世紀には原木を使った人工栽培が始まっていました。原木栽培は自然の生育環境に近い方法ですが、きのこが出るまでに時間がかかり、管理もしにくいという欠点があります。近年は、おがくずや農業廃棄物を殺菌してポリ袋に詰める袋栽培が広がりました。袋栽培では生産期間を短くでき、収量や品質もそろいやすくなります。天然林への依存を減らせる点も利点として挙げられています。紹介された報告の一つでは、適した温度の目安が段階ごとに示されています。菌糸を培地に広げる段階では24〜30℃、きのこの芽を作る段階では12〜20℃、きのこを育てる段階では21〜30℃です。湿度は85〜100%程度の高い範囲とされています。

培地については、稲わら、麦わら、トウモロコシの芯や茎、サトウキビの搾りかす、バナナの葉など、さまざまな農業残さが試されてきました。著者らは、単一の材料を使うよりも、複数の材料を組み合わせて米ぬかや麦ふすまなどの栄養分を加えた培地のほうが、生産性を高めうると整理しています。例えばある研究では、トウモロコシの芯に米ぬかと麦ふすまを加えた培地が最も適していました。別の報告では、トウモロコシの茎とナラのおがくずを混ぜた培地で育てたアウリクラリア・コルネアが、とくに高い生産性を示しました。著者らは、混合培地では炭素と窒素の比率や栄養の組み合わせが釣り合いやすく、それが高い生産性の一因かもしれないと述べています。

種菌とは、培地に植え付ける菌のもとです。総説では、穀物、おがくず、液体、木の棒の4種類の種菌が比較されています。キビとモロコシに麦ふすまを加えた穀物種菌では、10日で菌糸が回りきったという報告がありました。ブナのおがくず7割と麦ふすま3割の種菌も、比較した配合の中で菌糸の伸びが最も速かったと紹介されています。費用の面では、ある研究の試算で、液体種菌が1本あたり2.80米ドルと最も高くなりました。最も安かったのは、原著で「giant mimosa」と記された植物の茎を使った棒状種菌で、1袋あたり0.074米ドルでした。著者らは、どの種菌を選ぶかは、地域で手に入る材料やその価格、収量に左右されるとしています。

総説が示すこと

著者らが強調するのは、キクラゲ類は種によって、菌糸の成長やきのこの発生に必要な環境が大きく異なるという点です。そのため、種ごとに合わせた栽培方法が重要だとしています。また、培地の配合や種菌づくり、環境管理の改良によって、栽培効率は大きく向上してきました。農林業の残さを培地に使うことは、廃棄物の再利用につながり、資源を循環させる経済にも役立つと位置づけられています。

キクラゲ類は食物繊維が豊富で、さまざまな生理活性物質を含むことから、栄養面や薬用面での価値も認められていると総説は述べています。そのうえで、栽培を悩ませる主な病害虫とその対策、残された知識の空白も整理しています。この総説からは、身近な食材であるキクラゲが、森の分解者としての生態から廃棄物を生かす栽培まで、幅広い視点でつながった研究対象であることがうかがえます。

著者:Kritsana Jatuwong(Department of Biology, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Worawoot Aiduang(Department of Biology, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Alviti Kankanamalage Hasith Priyashantha(Department of Biology, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Didsanutda Gonkhom(Department of Biology, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Orlavanh Xayyavong(Department of Biology, Faculty of Science, Champasack University, Pakse 16010, Laos)、Jutamart Monkai(Department of Biology, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Shihui Wang(Department of Biology, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Saisamorn Lumyong(Academy of Science, The Royal Society of Thailand, Bangkok 10300, Thailand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kritsana Jatuwong, Worawoot Aiduang, Alviti Kankanamalage Hasith Priyashantha, et al. Wood Ear Mushrooms (Auricularia spp.): From Biology and Cultivation to Nutritional Value and Future Opportunities. Life 2026-10-15. DOI: 10.3390/life16101730. 原著ライセンス:CC BY.