著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
虚血性脳卒中は、脳の血管が詰まって起こる脳卒中で、世界的に死亡や後遺症の大きな原因となっています。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの危険因子はよく知られていますが、研究チームは、これらだけでは説明しきれない発症も多いと指摘しています。そこで著者らが注目したのが、腸と脳のつながり(腸脳相関)を介した腸内細菌の働きと、その腸内細菌に影響する食事です。
この研究で扱われたのは「硫黄微生物食(SMD)」と呼ばれる食事パターンの指標です。これは、腸内で硫黄を代謝する細菌の働きと結びつく食事の傾向を表すもので、以前の研究で腸内細菌の遺伝子データと照らし合わせて開発されました。これまでの研究では、この食事パターンと大腸がんや死亡などとの関連が報告されていますが、虚血性脳卒中との関連は大規模な追跡研究で十分に調べられていませんでした。研究チームは、SMDのスコアが高い人ほど虚血性脳卒中を発症しやすいのか、その関係は量に比例するのか、人々の属性によって違うのかを調べました。
どのように調べたか
研究チームは、2006〜2010年に英国で40〜69歳の参加者を登録した大規模な追跡研究のデータを用いました。過去に脳血管の病気がなく、24時間分の食事内容を思い出して答えるオンライン調査に少なくとも1回有効に回答した20万8415人が主な分析対象です。
SMDスコアは、8つの食品群の摂取量から計算されました。加工肉、低カロリー飲料、蒸留酒が多いとスコアが上がり、ビール・サイダー、果汁、豆類、その他の野菜、菓子・デザートが多いとスコアが下がる仕組みです。なお著者らは、参加者の腸内細菌や硫黄を含む代謝物そのものは測定しておらず、SMDはあくまで食事から算出した指標であると明記しています。
参加者をスコアの低い順に4つのグループに分け、その後の虚血性脳卒中の発症を病院の入院記録や死亡登録で追跡しました。年齢、性別、民族、体格、社会経済的な状況、喫煙、飲酒、運動、持病、総摂取エネルギーなどの影響を統計的に調整したうえで、発症のしやすさの比(ハザード比)を推定しています。
主な結果
平均約11.45年の追跡期間中に、3273人が虚血性脳卒中を発症しました。すべての要因を調整した分析では、スコアが最も高いグループは最も低いグループに比べて、虚血性脳卒中のハザードが13%高いと報告されています(ハザード比1.13)。スコアが標準偏差1つ分上がるごとにハザードは4%高く、スコアと発症リスクの関係はおおむね直線的、つまりスコアが高いほど少しずつリスクが高まる形でした。
発症初期の2年間の発症者を除いた分析や、糖尿病・冠動脈疾患のある人を除いた分析でも、似た結果が得られました。一方、食事調査に2回以上回答した人に限ると、関連の向きは同じでしたが統計的に有意ではなくなりました。
属性別に見ると、年齢や性別による違いは統計的に明確ではありませんでした。民族別では、白人の参加者では正の関連が見られた一方、白人以外の参加者では逆向きの関連が見られました。ただし著者らは、白人以外の参加者が比較的少なく、探索的な分析であるため、確認が必要だとしています。また、低カロリー飲料を同じエネルギー量の野菜に置き換えた場合などの試算も行われましたが、いずれも統計的に有意な結果ではなく、具体的な食事の置き換えを勧める根拠にはならないと述べています。
この研究が示すこと
この研究は、腸内の硫黄代謝菌と結びつく食事パターンに沿った食べ方をしている人ほど、虚血性脳卒中を発症するハザードが高い傾向にあることを、大規模な追跡データで示しました。ただし観察研究であるため、食事が脳卒中を引き起こすという因果関係までは示されていません。
著者らは、関連の大きさは控えめで、食事の測り方の精度によって結果が左右される面もあると認めています。また、腸内細菌そのものを測っていないため、腸内細菌を介した仕組みは推測の段階にとどまります。研究チームは、腸内細菌と関わる食事パターンが脳血管の健康とどう関係するかを考える手がかりとして、この結果が別の集団でも再現されるかを確かめる必要があるとまとめています。
原著論文の著者・所属:Kai Wang(Department of Neurosurgery, Ningbo No. 2 Hospital, Wenzhou Medical University)、Zhiyuan Guo(School of Public Health, Wannan Medical College)、Liyuan Han(Center for Cardiovascular and Cerebrovascular Epidemiology and Translational Medicine, Guoke Ningbo Life Science and Health Industry Research Institute, University of Chinese Academy of Sciences; Department of Clinical Epidemiology, Ningbo No. 2 Hospital, Wenzhou Medical University)、Boding Wang(Department of Neurosurgery, Ningbo No. 2 Hospital, Wenzhou Medical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kai Wang, Zhiyuan Guo, Liyuan Han, et al. Sulfur microbial diet and ischemic stroke risk. Frontiers in Nutrition 2026-10-22. DOI: 10.3389/fnut.2026.1885612. 原著ライセンス:CC BY.