著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。

掲載誌:Revista Ibero-Americana de Humanidades, Ciências e Educação

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

妊娠から子どもが2歳になるまでのおよそ1000日間は、「最初の1000日」と呼ばれます。この時期には臓器の形成、脳や神経の発達、免疫の成熟などが進みます。体が環境の影響を受けやすい時期でもあり、とくに栄養がその後の成長や健康に関わると考えられています。

著者らは、この時期の栄養と、のちの肥満リスクとの関係を整理しました。母親の食事と子どもの食事の両方を対象とし、妊娠中・授乳期・離乳期といった時期の違いも考慮しています。また、好ましくない要因が一つだけある場合と、いくつも重なる場合の違いにも注目しました。背景には、胎児期や乳幼児期の環境がその後の病気のなりやすさに影響するという考え方があります。その仕組みの一つとして、エピジェネティクスが挙げられています。エピジェネティクスとは、DNAの配列そのものは変えずに、遺伝子の働き方を変える仕組みのことです。

どのように調べたか

この研究はナラティブレビューです。ナラティブレビューとは、既存の研究を集めて内容を整理・考察する文献研究のことです。著者らはPubMedやScopusなど複数の文献データベースを検索しました。その結果、ヒトを対象として最初の1000日の栄養と過体重・肥満・体脂肪などとの関係を調べた研究16本を分析対象としました。対象は2009年から2025年に発表された研究です。

対象研究の多くは、同じ人たちを時間をかけて追跡する縦断研究でした。そのうち8本は、出生時から子どもを追跡する出生コホート研究です。実施地域は南北アメリカ、ヨーロッパ、アジア、オセアニアにわたっていました。16本のうち68.75%が母親または子どもの栄養を調べており、主な項目は次のとおりです。母親の食事パターン、超加工食品(工業的な加工を多く経た食品)の摂取、母乳育児、補完食(離乳食)です。妊娠期を扱った研究は16本中6本でした。

主な報告結果

妊娠中の食事については、論文は次のように報告しています。健康的な食事パターンをよく守っていた母親の子どもでは、幼児期の過体重や肥満のリスクが低い傾向がみられました。一例は地中海食で、果物、野菜、魚、オリーブオイルが多く、赤身肉や糖分、超加工食品が少ない食事です。これをよく守ることは、4歳時点での過体重・肥満の少なさと関連していました。一方、母親の超加工食品の摂取が多いことは、子どもの過体重リスクの高さと関連していました。

エピジェネティクスに関わる報告もあります。妊娠初期に母親が炭水化物を多くとっていた場合、へその緒のDNAでRXRAという遺伝子のメチル化が多くみられました。メチル化とは、遺伝子の働きを調節する化学的な目印です。このメチル化は、子どもの体脂肪量や体脂肪率の高さと関連していました。ただし著者らは、関連があるだけでは「母親の食事→メチル化→肥満」という因果の流れを確かに示したことにはならないと述べています。そのうえで、仕組みを調べる研究がさらに必要だとしています。

出生後については、母乳育児の期間が1週間長くなるごとに、過体重のリスクが約1%低くなるという報告が紹介されています。少なくとも12か月母乳で育った子どもは、17週未満だった子どもに比べ、過体重のリスクが半分でした。ブラジルの低所得家庭の子どもを対象とした研究も紹介されています。この研究では、完全母乳の期間が短いことと母親の超加工食品摂取が多いことが重なると、過体重の発生が多くなっていました。

論文は、好ましくない要因が複数重なることが、過体重や体脂肪の多さのリスクの高さと関連していたと報告しています。あるコホート研究では、過体重・肥満になる予測確率が、好ましい条件では9.4%、好ましくない条件では63.6%でした。さらに、乳児期に体重が急速に増えることが、その後の体組成(体の脂肪と筋肉などの構成)の変化と関係していたことも示されています。

研究が示すこと

著者らは、最初の1000日の栄養が、その後の成長、体脂肪、体組成と関連していると結論づけています。母親の妊娠中の食事パターン、超加工食品の摂取、母乳育児、離乳食といった個々の栄養要因が過体重・肥満と関係しうることに加え、好ましくない要因がいくつも重なることも関係しうるとしています。ただし、示されたのは主に関連であり、どのような仕組みで肥満につながるのかは、まだ十分に解明されていないと著者ら自身が指摘しています。

著者:Jamylle Ravanne Campos Rocha(Faculdade Maurício de Nassau)、Elâni Gomes Barbosa(Graduanda em Psicologia pela Universidade Uniderp)、Elissama dos Santos da Silva Muniz(Universidade Estadual do Maranhão)、Danielly Camily Pereira Cabanha(Universidade Uniderp)、Lailda Brito Soares(Universidade Federal do Maranhão)、Raquel Paes dos Santos(Centro Universitário dos Guararapes)、Pâmela Gomes Santos(Universidade Federal do Maranhão)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jamylle Ravanne Campos Rocha, Elâni Gomes Barbosa, Elissama dos Santos da Silva Muniz, et al. NUTRIÇÃO NOS PRIMEIROS MIL DIAS E O RISCO DE OBESIDADE. Revista Ibero-Americana de Humanidades, Ciências e Educação 2026-10-08. DOI: 10.51891/rease.v12i10.30346. 原著ライセンス:CC BY.