新しい国に移り住むと、生活習慣とともに食生活も少しずつ変化していきます。これは「食のアカルチュレーション(食文化変容)」と呼ばれる現象で、近年、こうした食習慣の変化が心血管代謝の健康や慢性疾患のリスクと関連する可能性が指摘されています。今回紹介する研究は、米国に暮らす移民を対象に、食事とアカルチュレーションが「メタボリックシンドローム」の発症にどう関わっているのかを、大規模な統計データと聞き取り調査の両方から探ったものです。

メタボリックシンドロームとは、腹部肥満、血圧上昇、空腹時血糖の異常、中性脂肪の上昇、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)の低下といった複数の状態が重なった状態を指し、2型糖尿病や心血管疾患、さらにはがんなど、さまざまな慢性疾患のリスク要因として知られています。米国では移民人口が増加を続けている一方で、食事やアカルチュレーションがこの人たちのメタボリックシンドローム発症にどう関わるかは、これまで十分にわかっていなかったといいます。

研究でわかったこと

この研究は3つの調査(研究1〜3)から構成される学位論文です。研究1と研究2では、米国の大規模健康調査であるNHANES(2005〜2018年)のデータが用いられました。

研究1(参加者10,039人、平均年齢44歳、女性49.9%)では、栄養素の摂取パターンを統計的手法(因子分析)によって分類したところ、「欧米型・高エネルギー」「動物性・乳製品」「植物性」という3つの食事パターンが見出されました。全体の30%が3つ以上のメタボリックシンドローム基準に該当しており、植物性パターンへの適合度が高いほど、メタボリックシンドロームに該当するオッズ(可能性の指標)が低いという関連が示されました。

研究2(参加者4,863人、平均年齢44歳、女性50%)では、食事が持つ炎症を起こしやすい性質を数値化した指標(エネルギー調整済み食事性炎症指数、E-DII)が、アカルチュレーションとメタボリックシンドロームの関係にどう関わるかが調べられました。その結果、アカルチュレーションが進んでいることは、メタボリックシンドロームの該当率が高いことと関連し、また、より炎症を起こしやすい食事内容とも関連していました。ただし、E-DIIはアカルチュレーションとメタボリックシンドロームの関係を仲介したり、その関連の強さを左右したり、見かけ上の関連を作り出したりしている要因ではないという結果でした。つまり、両者はそれぞれ独立してメタボリックシンドロームと関連していたことになります。

研究3では、米国に住む西アフリカ出身の1世移民19人(女性11人、男性9人、平均年齢34歳)を対象に、6回のフォーカスグループ・インタビューと、参加者自身に結果を確認してもらう手続き(メンバーチェッキング)を通じて、食生活の変化や、その変化をもたらす要因、コミュニティに関する事情などが質的に探索されました。参加者からは、伝統的な食生活を維持したいという強い思いがある一方で、食費の負担、望む食材への入手のしにくさ、食材の調達や調理にかけられる時間の制約といった、構造的な障壁に直面している様子が語られました。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究では、植物性の食事パターンへの適合度が高いことが、メタボリックシンドロームの該当率の低さと関連していることが示唆されています。また、食事性炎症指数とアカルチュレーションは、それぞれ独立してメタボリックシンドロームと関連しており、著者らは、アカルチュレーションが食事の炎症性以外の何らかの経路を通じてもメタボリックシンドロームのリスクに関わっている可能性があると考察しています。これを踏まえ、心理社会的・行動的な要因も含めたさらなる検討や、より文化的背景を反映したアカルチュレーションの測定方法の活用が必要だとされています。

なお、これは横断的な統計データの分析と、限られた人数を対象とした質的調査を組み合わせた一つの研究であり、示された関連は因果関係を証明するものではありません。特に研究3は西アフリカ出身の移民という特定の集団を対象とした調査であり、その内容がすべての移民集団に当てはまるとは限りません。研究結果は、食を通じた健康格差の是正には、文化的背景に配慮した働きかけが必要であることを示唆するものと位置づけられています。

まとめ

この研究では、米国の移民を対象に、食事パターンやアカルチュレーションとメタボリックシンドロームとの関連が統計データと聞き取り調査の両面から検討されました。植物性の食事パターンとの関連や、アカルチュレーションが食事の炎症性とは別の経路でもリスクに関わりうる可能性が示唆される一方、伝統的な食生活を続けたくても費用や食材入手、時間といった障壁があることも明らかになりました。今後、こうした知見を踏まえた文化的背景に配慮した取り組みの検討が期待されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:食事のアカルチュレーション(食文化変容)、食事性炎症ポテンシャル、および米国移民におけるメタボリックシンドローム:NHANESと質的データを用いた混合研究法によるアプローチ(VCUスカラーズ・コンパス(バージニア・コモンウェルス大学)・2026年08月)