著者の所属・活動拠点の国は、カナダ、アラブ首長国連邦です。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

葉酸(ビタミンB9)は、DNAの材料づくりや、DNAに「メチル基」という小さな目印を付ける反応(DNAメチル化)に関わる栄養素です。サプリメントなどに使われる合成型を、ここでは葉酸と呼びます。DNAメチル化は遺伝子のスイッチのオン・オフに関わる仕組みの一つです。葉酸はこの目印の材料の供給に関係しています。

一方、細胞の中には約1日周期のリズムを刻む「時計遺伝子」があります。BMAL1やPER2はその中心的な遺伝子です。頭頸部扁平上皮がん(口やのど周辺にできるがんの一種)では、時計遺伝子の働きの乱れが報告されています。ただし、その現れ方は一様ではありません。

葉酸の量が頭頸部がんの時計遺伝子の調節に影響するかどうかは、これまで分かっていませんでした。そこで研究チームは、葉酸の過剰供給がDNAメチル化を通じて時計遺伝子の発現を変えるのではないかという仮説を立てました。そのうえで、頭頸部がん細胞を使った探索的な実験で、細胞の生存、DNA全体のメチル化、時計遺伝子の発現とメチル化の状態を調べました。

何を調べたか

実験には、下咽頭のがんに由来する培養細胞株「FaDu」を、頭頸部扁平上皮がんのモデルとして使いました。葉酸を含まない培地を基準条件とし、そこに葉酸を20マイクロモーラーまたは80マイクロモーラー加えた条件と比べました。著者らは、これらの濃度を実験上の比較的高い濃度として選んでいます。

まず、葉酸を加えて48時間後と72時間後に、生きている細胞の割合を測定しました。別の実験では、細胞のリズムをそろえる処理を行ったあと、7日間葉酸にさらしました。その細胞について、DNA全体のメチル化の程度を測りました。

さらに80マイクロモーラーの条件では、BMAL1とPER2を調べました。対象は、遺伝子の働きを調節する領域(プロモーター領域など)のメチル化、遺伝子から作られるメッセンジャーRNA(mRNA)の量、そしてタンパク質の量です。メチル化は、DNAの配列を個々の部位ごとに読み取って評価しました。

主な結果

細胞の生存は、葉酸を加えたどちらの濃度でも基準条件より有意に低下しました。48時間後、72時間後のいずれでも同様でした。

DNA全体のメチル化は、80マイクロモーラーで基準条件の約0.89倍となり、統計的に有意な低下でした。20マイクロモーラーでは約0.95倍で、有意な差ではありませんでした。

BMAL1とPER2の調節領域では、調べた部位のメチル化の状態に、葉酸の有無による違いは見られませんでした。BMAL1では13か所、PER2では2つの領域の計44か所を調べています。調べた部位の多くは、もともとメチル化されていない状態でした。

一方、mRNAの量は大きく変わっていました。80マイクロモーラーの葉酸で、BMAL1は約4.5倍、PER2は約3倍に有意に増えていました。タンパク質の量にも増える傾向はありましたが、統計的に有意な差には至りませんでした。

研究が示すこと

この結果から著者らは、時計遺伝子のmRNAが増えた理由は、調べた調節領域のメチル化の変化では説明しにくいと結論づけています。DNA全体のメチル化が下がっても、個々の遺伝子の調節領域のメチル化が変わるとは限りません。葉酸がどのような仕組みで時計遺伝子の発現を変えたのかは、まだ分かっていません。

これは1種類のがん細胞株を使った探索的な研究です。それでも、葉酸の量とがん細胞の体内時計の調節との関係を考えるうえで、出発点となる手がかりを示しています。

著者:Negin Faramarzi Garous(College of Pharmacy and Nutrition, University of Saskatchewan, Saskatoon, SK S7N 5E5, Canada)、Liubov Lobanova(Department of Anatomy, Physiology and Pharmacology, College of Medicine, University of Saskatchewan, Saskatoon, SK S7N 5E5, Canada)、Silvana M. Papagerakis(ARThrite Research Center, Université Laval, Quebec City, QC G1V 4G2, Canada)、Jessica R. L. Lieffers(College of Pharmacy and Nutrition, University of Saskatchewan, Saskatoon, SK S7N 5E5, Canada)、Raed S. Said(Department of Anatomy, College of Medicine and Health Sciences (CMHS), United Arab Emirates University (UAEU), Al Ain P.O. Box 15551, Abu Dhabi, United Arab Emirates)、Pétros Papagerakis(ARThrite Research Center, Université Laval, Quebec City, QC G1V 4G2, Canada)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Negin Faramarzi Garous, Liubov Lobanova, Silvana M. Papagerakis, et al. Folic Acid Oversupplementation Alters Global DNA Methylation and Circadian Clock Gene Expression in FaDu Head and Neck Squamous Cell Carcinoma Cells: An Exploratory Study. Nutrients 2026-09-26. DOI: 10.3390/nu18193181. 原著ライセンス:CC BY.