著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
揚げ物で生じる有害物質と、カリン成分への着目
肉などのタンパク質が豊富な食品を高温で加熱すると、ヘテロサイクリックアミン(HCA)と呼ばれる化合物ができることがあります。HCAは遺伝子に変異を起こす作用や発がん性をもつ物質群とされ、揚げ物などに含まれる量をどう抑えるかが課題になっています。これまでの研究では、ポリフェノールなどの抗酸化物質や植物抽出物を加えると、HCAの生成が抑えられることが報告されています。
研究チームが注目したのは、バラ科の果樹カリン(Chinese quince)の果実です。カリン果実のポリフェノールの99.5%は、プロアントシアニジン(PA)が占めます。PAは、カテキンなどの小さな単位が鎖のようにつながった物質で、つながっている単位の平均数を「重合度」と呼びます。カリンのPAは大半が重合度の高いものです。一方、PAは高温で分解や変化を起こしやすく、揚げ物の温度で働きが変わる可能性があります。そこで研究チームは、重合度の異なるPAが加熱でどう変化するか、またHCAの生成をどの程度抑えるかを調べました。
重合度の異なる2種類のPAを加熱して比較
研究チームは、カリン果実から精製した重合度の高いPA(PPA)と、それを酸と超音波、カテキンを用いて短い鎖に切り分けた低重合のPA(OPA)を用意しました。測定の結果、平均重合度はPPAが約41.9、OPAが約4.0でした。
これらの水溶液を密閉容器に入れ、油浴で120〜200℃に10分間加熱して揚げ調理を模した条件に置き、PAの残存率、総フェノール量、そして2種類の試薬を用いたフリーラジカル消去能(抗酸化力の目安)を測りました。さらに、一般的な揚げ温度である180℃で加熱した試料と加熱前の試料について、重合度や分子量、構造の変化を分析しました。
HCA生成の抑制効果は、HCAの材料となるアミノ酸、ブドウ糖、クレアチン(主に肉に含まれる成分)を混ぜて180℃で10分間加熱するモデル系で調べました。動物性タンパク質を想定した系ではノルハルマン、ハルマン、PhIPという代表的なHCAを、クレアチンを除いた植物性タンパク質想定の系ではノルハルマンとハルマンを対象とし、PAを加えない場合と比べた生成の減少割合を求めました。
加熱で短い鎖が増え、低重合PAで抑制効果が高かった
加熱温度が上がるほど、PPAとOPAのいずれも残存率と抗酸化力が低下しました。140℃より低い温度ではPPAの残存率の方が高かったものの、140℃を超えるとOPAの方が有意に高くなり、180℃でもOPAは70%を超える残存率を保ちました。180℃加熱後のラジカル消去率は、OPAが2種類の試験でそれぞれ50.40%と26.30%、PPAは29.68%と9.10%で、OPAの方が高い値でした。
180℃加熱後には平均重合度がPPAで約27.5、OPAで約1.9に下がり、低重合の成分の含有量はPPAとOPAのどちらでもおよそ2倍に増えていました。著者らは、高温でPAの単位どうしの結合が切れ、新たに短い鎖のPAができたためと説明しています。赤外分光分析では、PAの基本的な骨格は加熱後も大きく変わっていないと報告されています。一方、加熱前のPPAとOPA、および180℃加熱後のそれぞれの試料を800℃まで加熱して重量の減り方を比べた分析では、180℃での加熱を受けていない試料の方が熱に強いという結果でした。
HCAの抑制では、どちらのモデル系でもOPAがPPAより強い効果を示し、さらに180℃で加熱した後のPAは、加熱前のものより強い抑制効果を示しました。最も効果が高かったのは180℃加熱後のOPAで、動物性タンパク質想定の系ではノルハルマン85.99%、ハルマン80.05%、PhIP 82.58%、植物性タンパク質想定の系ではノルハルマン74.66%、ハルマン79.70%の抑制率でした。相関分析では、重合度や分子量が低いほど、また低重合成分が多いほど、抑制率が高い関係が見られました。
研究が示すこと
この研究は、カリンのPAが揚げ温度に近い条件で分解しつつも短い鎖の成分を増やし、それがHCA生成の抑制の強さと関係していることを、モデル系の実験で示しました。著者らは、こうした結果がカリンのPAを天然の抗酸化素材として活用するための基礎的な知見になるとしています。ただし、今回の結果は成分を混ぜて加熱したモデル系で得られたもので、実際の揚げ物の中でも同じように働くかは、この研究の範囲を超えています。
原著論文の著者・所属:Can Fang(College of Food Science and Engineering & Institute of Special Oilseed Processing and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China; Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Mei-Qi Yang(College of Food Science and Engineering & Institute of Special Oilseed Processing and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Wan-Qing Kong(College of Food Science and Engineering & Institute of Special Oilseed Processing and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Qing Shi(College of Food Science and Engineering & Institute of Special Oilseed Processing and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Hao Liu(College of Food Science and Engineering & Institute of Special Oilseed Processing and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China; Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Hao Liu(College of Food Science and Engineering & Institute of Special Oilseed Processing and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China; Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Lin Xiao(College of Food Science and Engineering & Institute of Special Oilseed Processing and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Xing-Yu Liu(College of Food Science and Engineering & Institute of Special Oilseed Processing and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Jia-Hao Wang(School of International Education, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Zhao Qin(College of Food Science and Engineering & Institute of Special Oilseed Processing and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China; Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Hua-Min Liu(College of Food Science and Engineering & Institute of Special Oilseed Processing and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China; Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Hua-Min Liu(College of Food Science and Engineering & Institute of Special Oilseed Processing and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China; Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Can Fang, Mei-Qi Yang, Wan-Qing Kong, et al. Polymerization-Dependent Thermal Stability of Chinese Quince Proanthocyanidins and Their Inhibition of Heterocyclic Amines in a Simulated Frying System. Foods 2026-09-24. DOI: 10.3390/foods15193404. 原著ライセンス:CC BY.