ミネラルの中で、マグネシウムほど「名前は知っているが、どこから摂ればいいかわからない」と感じやすいものはないかもしれない。カルシウムなら「牛乳」、鉄なら「レバーやほうれん草」と即答できても、マグネシウムとなると言葉に詰まる。ところが日本食品標準成分表(八訂)でマグネシウムを多く含む食品を並べると、あることに気づく——上位に居並ぶのが、ほしひじき(ステンレス釜・乾)640mg、いりごま360mg、いりアーモンド(無塩)310mgと、乾物・いり加工品ばかりなのだ。これは偶然ではない。
「水分が抜ける」=栄養が詰まる
マグネシウムは骨をつくり、多くの酵素やエネルギー代謝に関わるミネラルで、日本人の食事摂取基準でも30〜49歳の推奨量は男性380mg、女性290mgとされる。意識的に摂りにくいとされる栄養素のひとつでありながら、意識して選ばれにくい。
上位の顔ぶれを貫く糸は「水分の除去」だ。乾燥・いりといった加工は水分を飛ばす。水分が減った分だけ、同じ重さに含まれるマグネシウムの密度が上がる——それが数値の高さの正体である。
ほしひじきの640mgは可食部100gあたりの値だが、乾燥状態100gは現実的な一食量ではない。提供データの目安量では1人分は約10g。それでも64mg相当を見込める計算になる(100gあたりからの単純換算)。煮物や炒め物に少量加えるだけで、日常の食事にマグネシウムを上積みできる、密度の高い素材だ。ただしひじきには無機ヒ素が含まれるため、乾物を水で戻してからゆでこぼすといった下処理で大幅に減らせるとされており、食べ過ぎず適度に取り入れることが大切だ。
いりごまの360mgも同じ原理にある。小さじ1杯(約3.3g)で12mg弱、大さじ1杯(約9.8g)では35mg強(いずれも100gあたりからの換算)。一度に大量には使わない調味感覚の食品だが、毎日の積み重ねとして数えられる。いりアーモンドの310mgも、一粒ずつのスナック感覚で取り入れやすい。
「転」——次に来るのはそばか。いや、ここでも裏切られる
乾物が並ぶ中、では干しそば(乾)はどうだろう。こちらも「乾」の字がついた加工品だ。ところが成分表を見ると、干しそば(乾)の主役の突出栄養素はでん粉(約65g)であり、マグネシウムは可食部100gあたり100mgとひじき・ごま・アーモンドに比べて大幅に低い——主成分がでん粉であるため、同じ「乾」の加工品でも素材そのものの成分構成が異なれば話は変わる。乾燥しているからといって、すべての栄養素が一様に濃縮されるわけではないのだ。水溶性食物繊維は可食部100gあたり1.6g(1人分120g換算で約1.9g)含まれる点は魅力だが、マグネシウム源として選ぶなら干しそばより乾燥海藻や種実のほうが合理的な選択になる。
さらに比較として木綿豆腐を見ると、こちらは水分を圧搾して作るが、マグネシウムは可食部100gあたり34mgと他食品と比べて低水準にとどまる。そして玄米の水稲五分かゆになると、エネルギーは100gあたり32kcalと低く、水分が大半を占めるおかゆの状態では、玄米本来の栄養が薄まっていることが数字から読み取れる。同じ「玄米」でも、かゆにするか炊き込むかで密度はまるで変わる——これも「加工状態が含有量を左右する」の好例だ。
明日から試せる選び方の転換点
「何を食べるか」だけでなく「どんな状態で食べるか」まで視野に入れると、日常の選び方が少し変わってくる。スーパーで目に留まるほしひじきやいりごまは、実はマグネシウム密度の高い食材だ。煮物の具にひじきを加える、料理の仕上げにごまを振る、おやつをアーモンド数粒に置き換える——いずれも手軽に続けられる一手だ。乾物は「保存食」というイメージで敬遠されがちだが、その保存できる理由(水分の除去)こそが、栄養の濃縮につながっている。
マグネシウムの含有量を左右しているのは、食材そのものの格付けよりも「水分が抜けているかどうか」という加工の事実だった。今回のデータには未測定・推定値の食品も含まれており、成分表はまだ空白を抱えている。その空白が埋まったとき、また違う食品が顔を出すかもしれない——それが成分表を読む面白さのひとつだ。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準