この研究は、カナダ、スイス、スウェーデンの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Current Biology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:チーズづくりの近代化は微生物をどう変えたか

チーズづくりは、自然に起こる発酵に頼っていた時代から、現在の標準化された製法へと長い歴史をたどってきました。研究チームによると、とりわけ大きな変化は直近の100年ほどの間に起きており、その背景には微生物学や製造技術の進歩があります。こうした変化はチーズの中にすむ細菌やウイルスの集まり(微生物群集)にも影響したと考えられますが、具体的にどのような影響があったのかは、これまで十分に調べられていませんでした。

そこで著者らは、食品生産の近代化に対して、チーズの微生物群集がどのように変化してきたのかを明らかにしようとしました。

何を調べたか:同じ山の酪農場に残る1875年から2017年のチーズ

研究の対象は、スイスの伝統的なチーズ「ラクレット・デュ・ヴァレー」です。研究チームは、スイスのアルプスにある同じ一つの酪農場で作られ、保存されてきた1875年から2017年までのチーズを用いました。

分析には、チーズに残るDNAを読み取る二つの方法が使われました。一つは、試料に含まれるDNAを網羅的に読み取り、どんな生物や遺伝子があるかを調べる「ショットガン・メタゲノム解析」です。もう一つは、細菌が共通して持つ「16S rRNA遺伝子」という目印の遺伝子を読み取り、どの種類の細菌がいるかを調べる方法です。

主な結果:製法の変化と重なる微生物の変化

論文によると、微生物群集の構成には大きな変化が見られ、その時期は製法の変化と重なっていました。

特に、最も古いチーズには他とは異なる細菌群集が見られました。そこでは、ラクチプランチバチルス・パラプランタルム、ストレプトコッカス・サーモフィルス、シュードラクトコッカス・ラウデンシスといった細菌に加え、腸内環境によく見られる細菌のグループが多くを占めていました。著者らはこれを、自然発酵による製法や、牛乳を固めるために子牛の胃が使われていたことを示すものだとしています。

細菌が持つ働きの面では、抗生物質への耐性にかかわる遺伝子(抗生物質耐性遺伝子)が増え、その後減っていく様子をたどることができ、その推移は抗生物質の使用状況を反映していたと報告されています。研究チームは、チーズの微生物群集に農業での抗生物質使用の広がりが記録されていると述べています。

さらに、チーズづくりに使われる乳酸菌が人の利用に適した性質へと変化していく「家畜化」は、今回調べた期間より前にすでに起きていたことが分かりました。また、細菌に感染するウイルスである「バクテリオファージ」についても、1875年のチーズで見つかった属は、現代のチーズづくりで一般的に見られるものの代表的な仲間だったといいます。

研究の意味:チーズは微生物の歴史を記録している

著者らは、これらの結果から、チーズの微生物群集が製法の移り変わりに合わせて変化してきたこと、そして家畜飼育での抗生物質使用のような人の営みが、人里離れたアルプスのチーズづくりの微生物にまで影響を及ぼしてきたことが示されたとしています。

保存された古いチーズは、長い期間にわたる微生物の記録を残しており、食品の作り方の変化が発酵食品の微生物をどう形づくってきたかを垣間見せてくれる、というのが研究チームの示した意味です。

著者:Vincent Somerville(Département de biochimie, de microbiologie, et de bio-informatique, Faculté des sciences et de génie, Université Laval, Québec City, QC G1V 0A6, Canada; Department of Health Sciences and Technology, Institute of Food, Nutrition and Health, ETH Zürich, 8092 Zürich, Switzerland. Electronic address: [email protected])、Marco Meola(Agroscope, Competence Division Methods Development and Analytics, Schwarzenburgstrasse 161, Bern 3003, Switzerland; DATABIOMIX GmbH, Zuercherstrasse 39D, 8952 Schlieren, Switzerland)、Abigail Nunes-Richards(Institute of Evolutionary Medicine, University of Zurich, Winterthurerstrasse 190, 8057 Zurich, Switzerland)、Johan Bengtsson‐Palme(Division of Systems and Synthetic Biology, Department of Life Sciences, Chalmers University of Technology, Science for Life Laboratory, 412 96 Gothenburg, Sweden; Centre for Antibiotic Resistance Research (CARe), 413 45 Gothenburg, Sweden; Department of Infectious Diseases, Institute of Biomedicine, The Sahlgrenska Academy, University of Gothenburg, 413 46 Gothenburg, Sweden)、Judith Neukamm(Institute of Evolutionary Medicine, University of Zurich, Winterthurerstrasse 190, 8057 Zurich, Switzerland)、Kerttu Majander(Department of Environmental Sciences, University of Basel, Spalenring 145, Basel 4055, Switzerland)、Marta Pla-Díaz(Department of Environmental Sciences, University of Basel, Spalenring 145, Basel 4055, Switzerland)、Meral Turgay(Agroscope, Competence Division Methods Development and Analytics, Schwarzenburgstrasse 161, Bern 3003, Switzerland)、Sylvain Moineau(Département de biochimie, de microbiologie, et de bio-informatique, Faculté des sciences et de génie, Université Laval, Québec City, QC G1V 0A6, Canada)、Monika Haueter(Agroscope, Competence Division Methods Development and Analytics, Schwarzenburgstrasse 161, Bern 3003, Switzerland)、Hélène Berthoud(Agroscope, Competence Division Methods Development and Analytics, Schwarzenburgstrasse 161, Bern 3003, Switzerland)、Ueli von Ah(Agroscope, Research Division Food Microbial Systems, Schwarzenburgstrasse 161, Bern 3003, Switzerland)、Petra Lüdin(Agroscope, Research Division Food Microbial Systems, Schwarzenburgstrasse 161, Bern 3003, Switzerland)、Verena J. Schuenemann(Institute of Evolutionary Medicine, University of Zurich, Winterthurerstrasse 190, 8057 Zurich, Switzerland; Department of Environmental Sciences, University of Basel, Spalenring 145, Basel 4055, Switzerland)、Noam Shani(Agroscope, Competence Division Methods Development and Analytics, Schwarzenburgstrasse 161, Bern 3003, Switzerland. Electronic address: [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vincent Somerville, Marco Meola, Abigail Nunes-Richards, et al. Microbial community dynamics in a traditional Swiss mountain cheese over 142 years of cheesemaking. Current Biology 2026-09-24. DOI: 10.1016/j.cub.2026.08.023. 原著ライセンス:CC BY.