魚を加工した後に残る頭・骨・内臓は、その多くが利用されずに廃棄される。ところが最近、そうした廃棄物を発酵させてカプセルに閉じ込めた飼料添加物が、鶏の腸内環境を整える可能性を示す研究が発表された。「廃棄物が育てるものに変わる」という逆転の発想が、抗生物質に頼らない飼料づくりの選択肢として注目されはじめている。
研究でわかってきたこと
フード・サイエンス・アンド・ニュートリション誌(2026年6月)に掲載された研究では、ナマズの加工廃棄物を発酵させ、マイクロカプセル化した抽出物(MFCWE)をブロイラー(食肉用の鶏)の飼料に加えた場合の効果が検討された。マイクロカプセル化とは、有効成分を極めて細かいカプセルで包む技術で、腸に届くまで成分が分解されにくくなると考えられている。
実験では、添加量を0.5・1.0・1.5・2.0%の4段階に設定し、何も加えない対照群と、従来の抗生物質系成長促進剤(亜鉛バシトラシン)を添加した群とを合わせた6グループで比較した。飼育35日目に、エネルギーの利用効率・栄養素の消化吸収率・消化酵素の活性・腸内の細菌数を測定している。
結果として、1.5%添加のグループが複数の指標で最も安定した改善を示したと報告されている。エネルギーの利用効率(見かけの代謝エネルギー)・タンパク質の消化率・消化酵素の活性がいずれも統計的に有意に改善し、腸内の有害菌の一つとされる黄色ブドウ球菌の数は、添加なし群と比べて16.6%減少したという(p=0.003)。一方、総好気性菌や大腸菌の数には統計的な差は見られなかった。
研究チームは、1.5%添加が「抗生物質成長促進剤に代わる機能性飼料添加物としての可能性を支持する」と述べている。ただし、これはあくまで特定の条件下での実験報告であり、さらなる検証が必要な段階だ。
「循環」という視点で見る鶏肉の可能性
この研究が持つ意義は二重構造になっている。一つは食品ロスの削減だ。ナマズに限らず、魚の加工過程では相当量の残さが生じる。それを発酵・加工して飼料に活用する発想は、食品産業の廃棄物循環という観点からも注目される。
もう一つは抗生物質依存の低減だ。畜産分野での抗生物質の使用は、耐性菌の問題と関連するとして国際的に見直しが進んでいる。今回の研究は、抗生物質を使わずに腸内環境を整える選択肢の一つとして、発酵廃棄物由来の添加物が機能しうる可能性を示唆している。
私たちが日常的に食べる鶏もも肉(皮つき)や鶏むね肉(皮つき)は、鶏がどのように育てられたかという飼育環境と切り離せない食品だ。今回の研究で観察されたのは、この添加物を与えた鶏では栄養素の消化吸収率が改善し、あわせて腸内細菌の構成にも変化がみられたという二つの事実だ。なお、できあがった鶏肉そのものの味や栄養成分は今回の測定対象ではなく、飼育技術と食卓の関係を考える手がかりの一つにとどまる。
食卓の「どう育てられたか」に目を向ける
もちろん、研究はまだ動物実験の段階であり、この技術がすぐに私たちの食卓を変えるわけではない。今後の課題としては、長期的な安全性の確認、他の鶏種や飼育規模での再現性、さらにはコストや実用化のハードルが残る。
そのため現時点では、この飼料技術が市販の鶏肉に反映されているわけではなく、店頭で鶏肉を選ぶ基準になるものではない。むしろこの研究が私たちに示すのは、食品ロスと抗生物質耐性という二つの社会的課題が、一つの技術でつながりうるという視点だ。普段は捨てている部位が別の食品を支える資源になりうる――その循環の発想を知っておくことが、いま読者が持ち帰れる現実的な収穫といえる。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。参考文献:Effect of Microencapsulated Fermented Catfish Waste Extract on Apparent Metabolizable Energy, Nutrient Digestibility, Digestive Enzyme Activity, and Intestinal Microbiota of Broiler Chickens(フード・サイエンス・アンド・ニュートリション(2026-06-10))