この研究は、ブラジル、スペインの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food and Bioprocess Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ペキーはブラジルのセラード(熱帯サバンナ)に自生する果実です。その種子の仁(ペキーアーモンド)は加工の過程で副産物として生じ、主に油の採取に使われています。油を搾った後の残りかすには、乾燥重量あたり約27%のタンパク質が含まれています。一方、これまでの研究では、このタンパク質は分子構造がしっかりまとまっており、水や油を保持する力が弱く、油と水を混ぜ合わせる乳化性も低いことが報告されていました。そのため、食品素材としての使い道が限られていました。
研究チームが着目したのは、低温大気圧プラズマと呼ばれる技術です。空気中で放電を起こすと、活性酸素種や活性窒素種などの反応性の高い成分が生じます。この技術は、化学的な改質剤を直接使わずにタンパク質の構造を変えられる方法として注目されています。ただし、処理条件しだいではタンパク質の酸化や凝集が進み、かえって性質が損なわれることもあります。また、ペキー種子タンパク質への影響はこれまで調べられていませんでした。そこで著者らは、処理時間を変えたときにこのタンパク質の構造や食品加工上の性質がどう変わるかを調べました。
何を調べたか
研究チームは、ブラジル・ミナスジェライス州の小規模生産者から入手したペキーの種子からタンパク質を抽出し、凍結乾燥して粉末にしました。この粉末のタンパク質含量は、乾燥重量あたり約88%でした。
粉末10グラムを薄く広げ、誘電体バリア放電と呼ばれる方式の装置で、空気中にプラズマを発生させて処理しました。処理時間は2、4、6、8、10分の5段階で、処理していない粉末を比較対象としました。10分間処理した後も粉末の温度は25℃を超えず、穏やかな温度条件で処理できたことが確認されています。
処理後の粉末を中性の緩衝液に分散させ、さまざまな指標を測定しました。主な指標は、分子の大きさの分布、分散液中の粒子の大きさとそのばらつき、粒子表面の電荷、紫外線の吸収と蛍光の強さ(タンパク質の立体構造の変化を探る手がかりになる)、表面の疎水性(水をはじく性質)、酸化の指標となる遊離チオール基とカルボニル基の量、赤外分光による構造の変化です。あわせて、溶解性、乳化性、保水・保油性、流動特性も評価しました。
主な結果
電気泳動で分子の大きさの分布を調べたところ、処理したタンパク質も未処理のものとほぼ同じパターンを示しました。タンパク質の鎖が大きく切断された様子は検出されませんでした。10分処理では一部のバンドがやや薄くなりましたが、著者らはこれを分解の証拠ではなく、溶けやすさや染色のされ方の変化による可能性があると説明しています。
分散液中の粒子の大きさは、2分と4分の短時間処理で未処理より明らかに小さくなりました。著者らは、タンパク質の塊が部分的にほぐれたためと考えています。ところが処理時間が長くなるにつれて粒子は再び大きくなり、10分で最大になりました。粒子の大きさのばらつきも長時間処理で増え、著者らは再び塊ができている可能性を指摘しています。一方、粒子表面の電荷はどの条件でも約マイナス16ミリボルトでほとんど変わりませんでした。このことから、粒子の大きさの変化は主に電荷の変化によるものではなく、構造の変化に伴うタンパク質どうしの結びつきが関係している可能性があると論文は述べています。
処理したタンパク質では、波長210〜300ナノメートルの紫外線の吸収と、蛍光の強さがいずれも増加しました。これは測定で確かめられた変化です。著者らはこの結果について、タンパク質の折りたたまれた立体構造が部分的にゆるみ、ふだん内側に隠れているトリプトファンなどの芳香族アミノ酸が外側に出てきたためではないかと解釈しています。ただし、これはデータから推測された説明にとどまります。表面の疎水性は、2分と4分の処理で最大で未処理の2.31倍に高まりましたが、6分以降の長時間処理では低下しました。著者らは、凝集によって疎水性の部分が再び塊の内側に埋もれた可能性を挙げています。
酸化の指標にも、処理時間に応じた変化が表れました。遊離チオール基は処理時間とともに減少し、タンパク質1グラムあたり4.09マイクロモルから1.75マイクロモルまで下がりました。カルボニル基は、タンパク質1ミリグラムあたり21.92ナノモルから、10分処理で43.97ナノモルへと約2倍に増えました。特に8分と10分でカルボニル基の増加が大きく、著者らはこれをより強い酸化の表れとみています。赤外分光でも、どの処理時間でもタンパク質に特徴的な吸収帯の強さが変わり、わずかなずれが見られました。論文はこれを、タンパク質を取り巻く局所的な環境や、分子どうしの組み合わさり方・まとまり方が変化したことを示唆するものとしています。
この研究が示すこと
この研究では、空気中でのプラズマ処理によってペキー種子タンパク質の鎖が大きく切断された様子は見られない一方、粒子の大きさや酸化の指標などが処理時間に応じて変化しました。著者らの解釈では、短時間の処理ではタンパク質の塊がほぐれて構造がゆるみ、長時間の処理では酸化が進んで再び塊がつくられる傾向があります。処理時間の選び方が、副産物由来のこのタンパク質の性質を左右する重要な条件であることを示す結果です。
著者:Fábio Ribeiro dos Santos(Department of Food Technology, Federal University of Viçosa, University Campus, Avenue Peter Henry Rolfs, S/N, Viçosa, MG, 36570-900, Brazil)、Jeferson Silva Cunha(Department of Food Technology, Federal University of Viçosa, University Campus, Avenue Peter Henry Rolfs, S/N, Viçosa, MG, 36570-900, Brazil)、Flaviana Coelho Pacheco(Department of Food Technology, Federal University of Viçosa, University Campus, Avenue Peter Henry Rolfs, S/N, Viçosa, MG, 36570-900, Brazil)、Icíar Astiasarán(Center for Nutrition Research, Department of Nutrition, Food Science and Physiology, Faculty of Pharmacy and Nutrition, Instituto de Nutrición y Salud. University of Navarra, C/Irunlarrea S/N, 31008, Pamplona, Spain)、Diana Ansorena(Center for Nutrition Research, Department of Nutrition, Food Science and Physiology, Faculty of Pharmacy and Nutrition, Instituto de Nutrición y Salud. University of Navarra, C/Irunlarrea S/N, 31008, Pamplona, Spain)、Ana Flávia Coelho Pacheco(Cândido Tostes Dairy Institute, Agricultural Company of Minas Gerais (EPAMIG), 16 Lieutenant Luiz de Freitas, 116, Juiz de Fora, MG, 36045-560, Brazil)、Márcia Cristina Teixeira Ribeiro Vidigal(Department of Food Technology, Federal University of Viçosa, University Campus, Avenue Peter Henry Rolfs, S/N, Viçosa, MG, 36570-900, Brazil)、Bruno Ricardo de Castro Leite Júnior(Department of Food Technology, Federal University of Viçosa, University Campus, Avenue Peter Henry Rolfs, S/N, Viçosa, MG, 36570-900, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fábio Ribeiro dos Santos, Jeferson Silva Cunha, Flaviana Coelho Pacheco, et al. Cold Atmospheric Plasma-Induced Modifications in the Structural and Techno-Functional Properties of Pequi Almond (Caryocar brasiliense Camb.) Proteins. Food and Bioprocess Technology 2026-10-01. DOI: 10.1007/s11947-026-04620-7. 原著ライセンス:CC BY.