養殖魚の健康を維持しながら育てる方法として、近年注目されているのが「プロバイオティクス」と呼ばれる有用微生物をエサに加える手法です。ヒトの分野でもヨーグルトなどでおなじみの乳酸菌ですが、魚の養殖現場でも、腸内環境や免疫力への働きが研究されています。今回紹介するのは、観賞魚や食用魚として利用されるマダラスズキ(Scatophagus argus)を対象に、乳酸菌の一種であるLactiplantibacillus plantarum LP100をエサに加えた場合の影響を調べた研究です。
研究チームは、300尾のマダラスズキを5つのグループに分け、LP100を4段階の濃度(1.1×10の6乗、7乗、8乗、9乗CFU/g)でエサに添加したグループと、添加しないグループ(対照群)を比較しました。各グループは3つの水槽に分かれ、1水槽あたり20尾を収容し、8週間にわたって飼育試験が行われました。
研究でわかったこと
8週間の飼育の結果、適切な濃度でLP100を添加したグループでは、体重増加率や特定成長率が有意に高くなり、飼料効率を示す指標(飼料転換率)も改善したと報告されています。また、血清中のリゾチーム活性や補体C3・C4といった免疫関連の指標も上昇したとされました。
肝臓の状態を調べたところ、対照群と比べてLP100添加群はいずれも抗酸化酵素SODの活性が高く、特に中程度の濃度(1.1×10の8乗CFU/g、論文中でLPMHと表記)のグループで最も高い値を示したとされています。また、中〜高濃度のグループでは、酸化ストレスの指標であるMDA(過酸化脂質)の含有量が有意に低かったことも示されました。
腸管では、炎症に関わるIL-1βやTNF-αといった遺伝子、炎症を抑える方向に働くIL-10、さらに免疫シグナルに関わるIRAK-4、MyD88、TLR2といった遺伝子の発現が、LP100の添加によって増加したことが報告されています。腸の組織を観察したところ、絨毛の長さや幅、筋層の厚みが増加する傾向も見られたとされています。
腸内細菌叢の分析では、どのグループでもFirmicutes門とProteobacteria門が主要な細菌グループを占めていましたが、1.1×10の8乗CFU/gを与えたLPMHグループでは特徴的な変化が見られ、対照群と比べてFirmicutes門の割合が高く(53.3%対25.3%)、Bacteroidota門の割合は低下していました(0.18%対0.67%)。日和見病原菌とされる細菌は減少し、一方でBacillusやLysinibacillusといった有用とされる細菌属は増加したと報告されています。
さらに、病原菌であるStreptococcus agalactiaeを人為的に感染させる実験(チャレンジ試験)を行ったところ、LPMHグループの生存率は対照群と比べて有意に高かった(60%対16.67%)とされています。これらの結果から、研究チームは今回の実験条件下では、1.1×10の8乗CFU/gがLP100をマダラスズキに与える際の適切な添加量である可能性があるとしています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の魚種・特定の菌株・特定の実験条件のもとで行われた一つの研究であり、結論が確定したものではありません。ヒトの健康効果について直接示すものではなく、あくまで養殖魚を対象とした飼育試験の結果である点にも注意が必要です。また、要旨で報告されているのは特定濃度での傾向であり、他の魚種や異なる飼育環境でも同様の結果が得られるかどうかは、今後のさらなる研究を待つ必要があると考えられます。
まとめ
今回紹介した研究では、乳酸菌LP100を適切な濃度でマダラスズキのエサに添加することで、成長性能や免疫関連指標、腸内環境、そして病原菌に対する耐性に関連する変化が観察されたと報告されています。特に1.1×10の8乗CFU/gという濃度で、複数の指標において良好な傾向が示された点が、この研究のポイントといえそうです。養殖分野におけるプロバイオティクス活用の一事例として、今後の研究の広がりが注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:Lactiplantibacillus plantarum LP100の飼料添加がマダラスズキ(Scatophagus argus)の成長、腸内健康、免疫、疾病耐性に及ぼす影響(フロンティアーズ・イン・マイクロバイオロジー・2026年07月)