この研究は、イランの研究機関の研究論文です。

掲載誌:PLoS ONE

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:赤身肉の食べ過ぎに経済格差はあるのか

高血圧は世界の30〜79歳の成人のおよそ3人に1人に見られ、心血管の病気や脳卒中、早すぎる死の大きな要因とされています。高血圧の管理では食事の見直しが柱の一つで、赤身肉や加工肉の多い食事は高血圧のリスク要因になるという報告もあります。一方で、何をどれだけ食べるかは、収入や学歴、仕事、住む場所などの社会経済的な条件に左右されます。

研究チームは、イランの高血圧の成人を対象に、赤身肉を頻繁に食べる人が経済的に豊かな層と貧しい層のどちらに偏っているかを数値で示し、その偏りにどのような要因が関わっているかを調べました。著者らによると、低・中所得国ではこうした格差に注目した研究が少なく、高血圧の人の赤身肉摂取を社会経済的な要因から分析した研究はほとんどなかったといいます。

調べ方:全国調査のデータと「格差の分解」

分析には、2021年にイラン全土で実施された、生活習慣病の危険因子に関する全国調査(WHOが推奨するSTEPS調査)のデータが使われました。全国から選ばれた18歳以上の成人のうち、血圧の測定値が高かった人や、医師から高血圧と診断された人、降圧薬を飲んでいる人を高血圧とし、必要な情報がそろった9,024人を分析しました。平均年齢は56.1歳です。

調査では、牛肉、子牛肉、羊肉、ヤギ肉、ラクダ肉といった赤身肉を普段どのくらいの頻度で食べるかを尋ねています。研究チームは、週4回以上食べる人を「過剰摂取」と定義しました。これは食べた量ではなく、食べる頻度にもとづく分類です。

経済的な豊かさは、車の所有、住まいの床や壁の材質、生活インフラへのアクセス、耐久消費財の有無などをまとめた「資産指数」で測り、対象者を最も貧しい層から最も裕福な層まで5つのグループに分けました。

偏りの大きさは「集中指数」で表しました。この指数はマイナス1からプラス1の範囲をとり、0なら偏りがなく、プラスなら裕福な層に、マイナスなら貧しい層にその行動が集中していることを意味します。さらに「ワグスタッフ分解」という経済学の手法を使い、学歴や職業、年齢、性別などの要因がそれぞれ格差のどれだけを説明するかを割り出しました。ある要因が格差に寄与するのは、その要因が赤身肉の頻繁な摂取と関連していて、なおかつ豊かさによって偏って分布している場合です。

主な結果:頻繁な摂取は裕福な層に集中、最大の要因は学歴

赤身肉を週4回以上食べる人は、高血圧の成人の16.5%でした。集中指数は0.179で統計的に意味のある値となり、頻繁な摂取が裕福な層に偏っていることが示されました。

格差を分解すると、最も大きく寄与していたのは12年以上の教育を受けていることで、格差全体の約20.6%を占めました。論文は、学歴の高い人が裕福な層に多く、かつ頻繁に赤身肉を食べる確率が高かったことが、この寄与につながったと説明しています。次いで、無給の仕事に就いていること(6.8%)、失業していること(4.4%)、40〜59歳であること(4.2%)が格差を広げる方向に働いていました。表の数値からは、無給労働や失業の人は頻繁な摂取の割合が低く、貧しい層に多かったことがうかがえます。

一方、60歳以上であることと男性であることは、格差をいくらか縮める方向に寄与していました。都市に住んでいるかどうかの寄与はごくわずかで、高血圧以外の持病の有無もほとんど格差を説明しませんでした。

ただし、分析に含めた要因で説明できたのは格差全体の約29.4%にとどまり、残りの約7割は説明できませんでした。著者らは、食品価格や家計の食費、食の好み、文化的な習慣、栄養の知識など、この調査で測られていない要因が関わっている可能性を挙げています。

この研究が示すこと

この研究は、イランの高血圧の成人では、赤身肉を頻繁に食べる人が経済的に豊かな層に偏っており、その偏りの一部が学歴や就業状況といった社会的な条件と結びついていることを示しました。著者らは、食習慣の違いは個人の選択だけでなく社会経済的な条件によって形づくられているとして、社会経済的な層の違いを考慮した栄養指導の必要性を指摘しています。

なお、この研究はある一時点の調査にもとづいており、豊かさが摂取を増やすという因果関係までは示せません。また、食事は自己申告で、加工肉の摂取や調理法、1回に食べる量は分析に含まれていません。こうした前提のもとで、高血圧の人の食生活を考えるうえでは、健康に関する知識だけでなく経済的・社会的な背景にも目を向ける必要があることを、この研究は伝えています。

著者:Saba Karimi(Endocrinology and Metabolism Population Sciences Institute, Tehran University of Medical Sciences)、Sara Kaveh(School of Public Health, Tehran University of Medical Sciences)、S Emamgolipor sefiddashti(Endocrinology and Metabolism Population Sciences Institute, Tehran University of Medical Sciences)、Samaneh Akbarpour(Tehran University of Medical Sciences)、Sajjad Dorri(School of Public Health, Tehran University of Medical Sciences)、Yosra Azizpour(Endocrinology and Metabolism Population Sciences Institute, Tehran University of Medical Sciences)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Saba Karimi, Sara Kaveh, S Emamgolipor sefiddashti, et al. Assessment and decomposition of excessive red meat consumption among hypertensive adults: A Wagstaff decomposition analysis. PLoS ONE 2026-10-05. DOI: 10.1371/journal.pone.0359650. 原著ライセンス:CC BY.