著者の所属・活動拠点の国は、マダガスカルです。
掲載誌:F1000Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
マダガスカルで食べられているヤシ科の植物(Hyphaene coriacea)の果実は、糖がごく少なく、炭水化物の大部分を難消化性の成分が占めることが明らかになりました。2026年6月に学術誌F1000Researchに掲載された研究が報告した数字です。果実の採取・分析は2021年2月に実施されたものであり、現地の食習慣そのものは以前から続いてきたものです。
この果実はマダガスカルのモロンダバ地域で採取されたものが分析されました。以下の数値はすべて乾燥重量基準(乾燥・粉末化された果実100g分)の値です。この前提を踏まえた上で内訳を見ると、炭水化物全体は87.80%にのぼります。その炭水化物87.80%の構成を分析軸別に見ると、まず「残余炭水化物分画」が53.59%を占めています。これはヘミセルロースやペクチンといった成分を含む分画です。デンプンは13.56%、可溶性糖(糖質として機能する部分)は3.91%で、還元糖は検出されず、ショ糖が3.71%を占めていました。また、粗繊維は34.21%、植物細胞壁を支えるリグニンの推定値は18.08%です。粗繊維やリグニンは食物繊維の中でも不溶性・難消化性の構造成分であり、これらはデンプンや可溶性糖とは別の測定軸で得られた値です。つまり、この果実の炭水化物は、食べても甘みにはならない難消化性成分が主体を成しています。
食物繊維34%——この数字を身近なスケールで読む
34%という粗繊維の値は、数字だけではピンと来ないかもしれません。日本で食物繊維の多い食品として知られる食材と並べてみると、スケールが見えてきます。
たとえばごぼう(堀川ごぼう)の食物繊維総量は100gあたり18.3gです。堀川ごぼうは京都を代表する京野菜の一品種で、繊維の多い野菜として知られるごぼうの中でもとりわけ太く食べごたえのある品種です。押麦(大麦)は100gあたり12.2gで、いずれも食物繊維の供給源として高く評価される食品ですが、この果実の34.21%(乾燥重量)という数値は、これらをはるかに上回る水準にあります。マダガスカルでは果肉を乾燥・粉末化した形で消費されており、実際にどれだけ食べるかによって摂取量は大きく変わる点は押さえておきたいところです。
なお、炭水化物の多い食品として身近なさつまいもの食物繊維総量は100gあたり2.2g、コーングリッツ(とうもろこしを粗挽きにした食品)は2.4gです。どちらもエネルギー源となる糖質を豊富に含む食品であり、食物繊維の量という点では、この果実とは大きく異なる構成になっています。
「糖が少ない+繊維が多い」が示すこと
この研究が注目するのは、可溶性糖の低さと食物繊維の高さの組み合わせです。今回の果実に含まれる繊維は、粗繊維・リグニンといった不溶性・難消化性の構造成分が中心を占めています。これらは水溶性食物繊維とは異なる成分であり、血糖への影響も別のメカニズムによるものと考えられています。研究チームはこの成分構成が血糖コントロールの面で栄養上の意義をもつ可能性を示唆していますが、そのメカニズムや実際の効果を解明するには、さらなる研究が必要です。
ただし、研究論文自体が明確に述べているとおり、この可能性はあくまで成分組成の分析から導かれた仮説にすぎません。実際に血糖値にどう影響するかを確かめるには、動物実験や臨床研究が必要であり、それはこれからの課題だと論文は結論づけています。食品の成分が「どんな構成か」を知ることと、それが「体の中でどう作用するか」を証明することは、科学的には別の話です。
未知の食材が問いかけること
マダガスカルで食べられてきた「甘くない果実」の分析が、食物繊維の多様な姿と、成分研究の面白さを同時に教えてくれます。結論を急がず、「まだ分からない」を誠実に届けているこの研究は、科学のあるべき姿勢そのものでもあります。次の一歩となる臨床研究の報告が、今から楽しみです。
食事は特定の食品や成分に頼るのではなく、主食・主菜・副菜をそろえた多様な食生活を基本にすることが、長く健やかに暮らすための土台になります。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。出典(原著論文):Carbohydrate and fibre fractions of the fruit of Hyphaene coriacea Gaertn.: compositional characterisation and potential nutritional interest(F1000Research(2026-06-12))
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:e-ヘルスネット「炭水化物 / 糖質」(厚生労働省)
著者:- NAZMOUL(Antananarivo University of Antananarivo Faculty of Science)、Hery Randrianatoro(Antananarivo Madagascar National Research Centre of the Environment)、Zo Randriamahatody(Antananarivo Madagascar National Research Centre of the Environment)、Olga Rachel Rakotomanana(Antananarivo National Centre for Applied Research of Rural Development)、Danielle Aurore Doll Rakoto(Antananarivo University of Antananarivo Faculty of Science)