ワインづくりの過程では、ブドウを搾ったあとに大量の「果皮」が副産物として残ります。この赤ブドウ果皮には、ポリフェノールや食物繊維、糖分、脂質、トリテルペンといった生理活性成分が豊富に含まれていることが知られています。廃棄されがちなこの副産物を家畜の飼料として活用できれば、環境面でもコスト面でも持続可能な選択肢になるかもしれない——そんな発想から行われたのが今回紹介する研究です。ワインの副産物がヤギのミルクにどのような影響を与えるのか、少し覗いてみましょう。

どんな研究が行われたのか

この研究では、サイレージ(発酵貯蔵)にした赤ブドウ果皮を、エネルギーとタンパク質の量をそろえた飼料に0%、6%、12%、18%(いずれも乾物重量ベース)の割合で混ぜ、ムルシアーノ・グラナディーナ種の乳用ヤギ72頭に与えました。ヤギたちは8つのグループ(各9頭)に分けられ、それぞれの飼料が2グループずつに割り当てられて、8週間にわたる給餌試験が行われました。2週間の慣らし期間のあと、2週間ごとに合計4回のミルクサンプリングを実施し、各グループのタンクからまとめて採取した乳を分析しています。調べられたのは、乳の基本成分やpH、ミネラルの組成、脂肪酸の構成、チーズ作りに関わる凝固特性、色の測定値、抗酸化能など多岐にわたります。

研究でわかったこと

まず、赤ブドウ果皮を飼料に加えても、乳の基本成分(脂肪やタンパク質など)や抗酸化活性には大きな違いが見られなかったと報告されています。一方で、乳の尿素態窒素濃度や体細胞数(乳の健康状態を示す指標の一つ)は有意に減少したとされ、人の健康という観点から見た脂肪酸プロファイルにも改善が見られたと述べられています。色に関する測定値にもわずかな変化はあったものの、その差は0.5単位未満と小さく、人の目で見分けられる範囲を下回るため、研究者らはこの変化を重要なものとは考えていません。

さらに、赤ブドウ果皮を与えた乳ではカルシウムとカリウムの濃度が増加したことや、12%添加のグループの乳でリン含量が最も高かったことも報告されています。また、最も添加量が少ない6%のグループでは、チーズ作りに関わるレンネット凝固時間が短くなり、乳の凝集(カード形成)の速度が高まったとされています。ただし、こうした個別の変化が見られた一方で、乳全体の組成としては安定を保っており、これは乳を加工品に利用するうえでの機能性を保つために重要だと論文では位置づけられています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この記事で紹介した内容は、ムルシアーノ・グラナディーナ種のヤギ72頭を対象に、8週間という一定の期間で行われた一つの飼養試験の結果です。ここで報告された尿素態窒素や体細胞数の減少、脂肪酸プロファイルの変化などは、あくまでこの研究で観察された関連性であり、人が赤ブドウ果皮由来のミルクを摂取した場合の健康効果を示すものではありません。また、他の畜種や飼料条件、地域環境などによって結果が異なる可能性も考えられます。一つの研究として結論が確定したわけではなく、今後さらなる検証が必要だという前提で読むとよいでしょう。

まとめ

赤ブドウ果皮のサイレージをヤギの飼料に取り入れても、乳の基本的な品質は安定して保たれつつ、尿素態窒素や体細胞数の減少、ミネラルバランスの変化といった特徴的な影響が見られたことが今回の研究で示唆されています。ワイン醸造の副産物を家畜飼料として活用する試みは、資源の有効利用という観点からも興味深いテーマであり、今後の研究の展開が注目されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:飼料中の赤ブドウ果皮サイレージ添加水準がヤギ乳の栄養的・技術的特性に及ぼす影響(ルミナンツ・2026年07月)