疲労回復といえばうなぎ かば焼を思い浮かべる人が多いだろう。だが運動後の一皿を数字で見比べると、もう一つの有力候補が見えてくる。ぶた ヒレ 赤肉 生のビタミンB1は100gあたり1.32mg。この時点でもうなぎの0.75mgを上回っている。ビタミンB1は糖質などの代謝・エネルギー産生を助ける補酵素で、成人(30〜49歳)の推奨量は男性1.2mg・女性0.9mgという基準がある。運動で使ったエネルギーを立て直す食卓を考えるなら、まず注目すべき数値だ。
生と焼き、可食部100gあたりの数値の見え方
ここからが本題である。豚ヒレ肉は「生」と「焼き」で成分表の値が別項目として収録されている。ぶた ヒレ 赤肉 焼きのビタミンB1は可食部100gあたり2.09mg。生の1.32mgと比べると数値は大きくなっているが、これは可食部100gあたりで比較した場合の値であり、加熱によって水分が失われて重量が減った分、同じ量に含まれる成分が凝縮されて見えるためだ。同じ重さの豚ヒレ肉を生のまま食べても焼いて食べても、そこから摂れる栄養素の総量そのものはほぼ変わらない。ビタミンB6も生0.54mgから焼き0.76mgへと数値が上がっているが同様の理由によるもので、こちらもアミノ酸の代謝に関わり、たんぱく質からのエネルギー産生と皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素として、成人(30〜49歳)の推奨量は男性1.5mg・女性1.2mgが示されている。
アミノ酸の値も、生と焼きの両方が成分表に収録されている。焼きは可食部100gあたりロイシン3200mg、トリプトファン500mg、チロシン1500mgで、生(ロイシン1800mg、トリプトファン290mg、チロシン810mg)と比べると数値が大きい。ロイシンは筋肉のエネルギー代謝に関わる分岐鎖の不可欠アミノ酸、トリプトファンはセロトニンの材料になる不可欠アミノ酸、チロシンは脳内の神経伝達物質のもとになるとされるアミノ酸である。これも加熱で水分が減った分だけ可食部100gあたりの数値として表れやすくなっていると考えられ、生の豚ヒレ肉にもともと含まれる量そのものが加熱で大きく失われるわけではない。たんぱく質も生22.2gから焼き39.3gへと可食部100gあたりの数値が上がっているが、これも水分が抜けて濃縮された値であり、実際に同じ量の肉から摂取できるたんぱく質の総量はほぼ変わらない。成人(30〜49歳)の推奨量は男性65g・女性50gという基準がある。ヒレ肉は赤身とはいえ、肉の主成分は水分であり、100gがそのままたんぱく質量になるわけではない点は踏まえておきたい。
うなぎにしかない数値も見ておく
一方で、豚ヒレのデータには出てこない数値がうなぎにはある。うなぎ かば焼は可食部100gあたりビタミンD19.0μg、EPA(エイコサペンタエン酸)750mgを含む。ビタミンDはカルシウムの吸収を高めて丈夫な骨や歯をつくるのを助けるとされ、EPAはn-3系の多価不飽和脂肪酸で青背の魚に多いとされる成分だ。豚ヒレ肉ではこれらはごくわずかで、補いたい栄養素が違えば選ぶ皿も変わってくる。なお、うなぎ かば焼はビタミンA(レチノール)を可食部100gあたり1500μgRAEと多く含む。ビタミンAは脂溶性で体に蓄積しやすく、成人(30〜49歳)の耐容上限量は2700μgRAEとされる。通常の食事で時折とる分には問題になりにくいとされるが、サプリメントの併用や妊娠中などは過剰摂取に注意が必要とされる。
組み合わせる一皿の作り方
運動後の食卓では、豚ヒレを焼いた一皿に、酸味と糖質を添えると献立に幅が出る。レモン 果汁 生はクエン酸6.5g、ビタミンC 50mgを含み、大さじ1杯(約15g)を搾りかければ十分な量になる。クエン酸はクエン酸回路に関与し、エネルギー代謝の中心的な役割を果たす有機酸で、ビタミンCは成人(30〜49歳)の推奨量は男女とも100mgという基準がある。バナナ 生は可食部100gあたりぶどう糖2.6g・果糖2.4gを含み、運動後のエネルギー補給として手軽だ。普通牛乳はコップ1杯(約210g)で乳糖4.4g(100gあたり)をとれる組み合わせとして加えやすい。ただし牛乳は食物アレルギーを起こしやすいとされる食材であり、体質によっては注意が必要だ。
まとめ
豚ヒレ肉は生の状態のビタミンB1でもすでに高い値を示し、焼きの可食部100gあたりの数値ではさらに大きく見えるが、これは加熱による水分減少で数値が濃縮されているためで、同じ量の肉から摂れる栄養素の総量が実際に増えているわけではない。ロイシンやトリプトファンといったアミノ酸も、生と焼きの両方に収録されており、焼きの数値が大きく見えるのも同様の理由によるものだ。生の数値と焼きの数値、どちらも可食部100gあたりの値であることを踏まえたうえで、食べる量に応じて栄養素の摂取量を考えることが大切だ。一方でうなぎにはビタミンDやEPAという、豚肉のデータには出てこない役割がある。万能な一皿は存在せず、何を補いたいかによって皿を選ぶ。豚ヒレの焼きデータにまだ収録されていない栄養素が今後補われたら、この一皿の見え方もまた変わってくるはずだ。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。
※本記事は特定の食品の効果・効能を示すものではありません。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準・食品安全委員会