ヨモギ(Artemisia princeps)は、お灸のもぐさや草餅、伝統的な民間療法など、アジアで古くから親しまれてきた植物です。抗炎症作用や抗酸化作用など、さまざまな薬理効果が報告されてきました。一方で近年、「ヨモギは鉄分が豊富で貧血対策になる」といったイメージも語られることがあります。しかし、そのような主張は実際にどれだけ科学的根拠に裏付けられているのでしょうか。今回紹介する研究は、ヨモギに関するこれまでの研究を体系的に洗い出し、薬理作用のエビデンスと、鉄源としてのエビデンスとの間にどれほどの差があるのかを検証したシステマティックレビューです。

研究チームは、PRISMAガイドラインとPICOCという枠組みに従い、PubMedとScienceDirectという学術データベースを用いて、2025年4月までに発表された文献を系統的に検索しました。集めた情報は、(1)ヨモギの薬理作用に関する研究と、(2)他の薬用植物における鉄含有量や鉄の吸収性(バイオアベイラビリティ)に関する研究、という2つのカテゴリーに整理して分析されています。

研究でわかったこと

その結果、ヨモギに関しては8件の研究が見つかりましたが、その内容は主に抗炎症作用、抗酸化作用、代謝に関する効果を報告するものでした。これに対し、ヨモギの鉄含有量に言及していた研究はわずか1件のみで、しかもその研究では鉄の吸収性や、血液中のヘモグロビン量といった血液学的な効果までは評価されていなかったと報告されています。

一方で、比較対象として調べられたオウギ(Astragalus membranaceus)、ビート(Beta vulgaris)、モリンガ(Moringa oleifera)といった他の薬用植物については、9件の研究において、動物実験や一部の人での研究でヘモグロビン値など鉄に関連する指標の改善が報告されていたとされています。つまり、これらの植物では「鉄源としての可能性」を裏付けるデータがある程度積み重なっているのに対し、ヨモギについてはそうしたデータがほとんど存在しない、という対比が浮かび上がった形です。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究はあくまで、これまでに発表された文献を集めて整理・比較した「システマティックレビュー」であり、著者ら自身が新たにヨモギの鉄含有量や効果を測定した実験研究ではありません。そのため、ヨモギに鉄分が多いか少ないか、鉄欠乏性貧血に役立つかどうかについて、この研究から直接的な結論を導くことはできない点に注意が必要です。

むしろ著者らは、ヨモギは幅広い薬理作用を持つことが示されている一方で、「鉄が豊富に含まれ、体内で利用しやすい形で存在するかどうか」という点についてはほとんど検証されておらず、現時点でヨモギを鉄欠乏対策の手段として位置づけるのは時期尚早である、というエビデンスのギャップを強調しています。

まとめ

今回紹介したシステマティックレビューでは、ヨモギに関する研究の多くが抗炎症・抗酸化・代謝作用に関するものであり、鉄源としての価値を示す研究は非常に限られていることが示されました。他の薬用植物と比較しても、ヨモギの鉄関連データの乏しさが際立つ結果となっています。著者らは、鉄含有量や吸収性、血液学的な効果を対象とした今後の研究の必要性を指摘しており、現時点でヨモギの鉄源としての役割を過大評価しないよう注意を促しています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:天然鉄源としてのヨモギ(Artemisia princeps)の可能性:薬理学的エビデンスと鉄バイオアベイラビリティに関するギャップのシステマティックレビュー(モレキュラー・アンド・セルラー・バイオメディカル・サイエンシズ・2026年07月)