脂質の中に、体内でほとんど作れないため食事からとる必要があるものがあります。それがn-3系多価不飽和脂肪酸です。「多価不飽和脂肪酸」とは、分子の中に二重結合を複数持つ脂肪酸のこと。n-3系はその中でも特定の位置に二重結合を持つグループで、α-リノレン酸・EPA・DHAなどが含まれます。消費者庁は「皮膚の健康維持を助ける栄養素」として認めており、食事摂取基準2025では女性(30〜49歳)の1日の目安量を1.7gと定めています(目安量は性別・年齢・妊娠授乳状況により異なります。本記事は女性30〜49歳の値を例示しています)。では、この1.7gを日々の食事でどう確保するか。成分表の収載食品からn-3系脂肪酸が多い上位5品を見ると、意外な顔ぶれが並んでいます。

上位4品はすべて植物由来

1位に立つのはえごま油、可食部100gあたり58.31g。2位のあまに油(56.63g)と並んで、どちらも100gの半分以上がn-3系脂肪酸という非常に高い密度です。えごま油・あまに油はともにα-リノレン酸を主体とするn-3系脂肪酸を含む代表的な植物油で、大さじ1杯(約8g)あたりのn-3系脂肪酸は1位えごま油で約4.7g、2位あまに油で約4.5gとなり、いずれも1日の目安量1.7gを1杯でゆうに超えます。少量で効率よく目安量に届く、という意味ではこの2品が突出しています。

ただし、植物油に含まれるのは主にα-リノレン酸であり、魚介類に豊富なEPA・DHAとは別の栄養素です。体内でα-リノレン酸からEPA・DHAへの変換は起こりますが、その変換効率は数%程度と極めて低いため、植物油だけではEPA・DHAを十分に補うことは事実上難しいとされています。EPA・DHAを摂るには、青魚などの魚介類を週に数回取り入れる食事バランスが重要です。

3位のえごま(乾)(23.7g)と4位のあまに(炒り)(23.5g)は種実そのもの。油を絞る前の状態ですから、含有量が油より下がるのは自然なことです。えごま(乾)は大さじ1杯(約10g)でn-3系脂肪酸が約2.4g。こちらも1杯で目安量1.7gに届く計算で、食物繊維なども一緒に摂れる食べ方として選択肢になります。

上位4品がすべて植物由来というのは、「n-3系脂肪酸=魚の油」というイメージを持っていると意外に感じるかもしれません。魚由来のEPAやDHAもn-3系脂肪酸ですが、絶対量の多さでは植物油が上位を占めるのが成分表の実態です。

5位は「動物由来で異色の存在」、ただし注意が必要

5位にようやく動物由来のたらのあぶら(22.64g)が登場します。魚油の代表として知られるこの油には、EPAが100gあたり13,000mg(=13g)と高濃度で含まれており、n-3系脂肪酸の中でも魚由来成分の密度という点では際立った存在です。

ただし、ここで記事の核心に触れなければなりません。たらのあぶらには、レチノール(ビタミンAの一種)が100gあたり37,000µg含まれています。女性(30〜49歳)のビタミンA耐容上限量は2,700µg/日——この値は、1日にこの量を超えると健康への悪影響が懸念される上限値です。たらのあぶら100gのレチノールはこの耐容上限量の約13.7倍(37,000µgに対して上限2,700µg)に相当し、いかに突出した量かがわかります。

もちろん、たらのあぶらを100g一度に食べる機会は通常ありません。しかし、サプリメントや魚肝油として摂る場合も含め、少量でもビタミンAの上限に近づきうる食品であることは知っておく必要があります。ビタミンAは脂溶性のため体内に蓄積しやすく、過剰摂取が続くと頭痛・吐き気・肝障害などのリスクがあるとされています。特に妊婦はレチノールの過剰摂取が胎児に影響する可能性があるため、魚肝油やたらのあぶらの摂取については医師・管理栄養士に相談することをおすすめします。n-3系脂肪酸の密度の高さと、レチノール過剰リスクの高さが同時に成り立つ——これがたらのあぶらの逆説です。なお同食品にはヨウ素も100gあたり450µg含まれており、これは女性(30〜49歳)の推奨量140µg/日の約3.21倍(321%)にあたります(この割合は推奨量に対するものであり、耐容上限量の基準ではありません)。ヨウ素にも耐容上限量(3,000µg/日)が設定されており、たらのあぶら100gの450µgは上限の約15%にとどまりますが、海藻類など他のヨウ素源と合わせて多量を継続して摂る際は念のため留意するとよいでしょう。

「濃さ=毎日使える」ではない

n-3系脂肪酸の含有量だけを見れば、えごま油・あまに油が群を抜くトップです。しかし今回のランキングが教えてくれるのは、「どれだけ濃いか」と「どれだけ安心して使えるか」は別の話だということです。たらのあぶらはn-3系脂肪酸の供給源として優秀な一方、レチノール過剰のリスクを伴うため、日常的に使い続ける油とは性格が異なります。

日々の目安量1.7gを無理なく補うなら、えごま油を大さじ1杯(約8g)サラダにかけたり、納豆に混ぜたりするだけで十分に届きます。加熱に弱い性質があるため、生のままで使うのが一般的な食べ方です。「n-3系脂肪酸を効率よくとりたい」という目的には、上位の植物油・種実がシンプルに使いやすい選択肢になるでしょう。ただし、えごま油の活用はn-3系脂肪酸摂取の一助であり、魚介類や多様な食品からバランスよく摂ることが食事全体として望ましいことも、あわせて覚えておいてください。

参考:日本食品標準成分表(八訂)、日本人の食事摂取基準(厚生労働省)、消費者庁 別表第11

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。