著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリア、カナダです。
掲載誌:Gut Microbes Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
私たちの腸には多種多様な細菌がすみついており、その集まりは「腸内細菌叢(腸内マイクロバイオーム)」と呼ばれます。著者らによると、腸内細菌叢は健康や病気に関わることが確立されており、しかも食事によって変化させることができます。そのため、腸内細菌叢に働きかける食事療法は、治療法の候補として位置づけられつつあります。
一方で、こうした食事療法が広く使われるまでには多くの壁があります。この論文は、健康と病気における腸内細菌叢の役割を検討したうえで、腸内細菌叢を標的とする食事介入を治療戦略として開発し、実際に導入していくための障壁と、その解決策を整理することを目的とした総説(既存の研究をまとめて論じる論文)です。
論文が示した現状と課題
著者らは、発酵性の食物繊維(腸内細菌が分解・利用できる食物繊維)を多く含み、栄養価の低い加工食品が少ない食事パターンを支持する証拠が増えていると述べています。しかし、治療のための食事戦略として食習慣を変え、それを続けていくことには、個人のレベル、地域のレベル、社会全体の仕組みのレベルで、それぞれ複雑な事情があるとしています。
さらに、食事療法の普及を妨げ、治療の結果を左右する重要な要因として、食事療法への反応が人によって異なる「個人差」を最も大きなものに挙げています。この個人差はまだ十分に特徴づけられておらず理解も進んでいないため、一人ひとりに合わせた栄養指導を目指す「精密栄養学」の進歩を妨げていると論文は指摘しています。
障壁を三つの領域に整理
論文では、こうした障壁を「生物学的」「行動的」「政策・制度的」という三つの領域に分けて整理しています。分子レベルや個人のレベルの仕組みから始まり、集団全体を支える社会の仕組みへと視野を広げていく構成です。
そのうえで著者らは、まだ証拠が不足している点を明らかにし、今後の研究や食事ガイドラインの作成を導くための、測定可能な評価項目の候補を示したと報告しています。
この研究が伝えること
この総説は、腸内細菌叢を意識した食事療法の可能性を認めつつ、それを実際の治療として根づかせるには、体の仕組みだけでなく、人の行動や社会の制度まで含めた課題に向き合う必要があることを示しています。特に、食事への反応の個人差がまだよく分かっていないという点は、この分野が抱える大きな未解明の課題として浮かび上がっています。
著者:Alice Sarah Day(Basil Hetzel Research Institute)、Anissa M. Armet(Department of Pediatrics, University of Alberta)、Srinivas Kamath(School of Pharmacy and Biomedical Science, Adelaide University)、Paul Joyce(School of Pharmacy and Biomedical Science, Adelaide University)、Robert Venning Bryant(Basil Hetzel Research Institute)、Heather Armstrong(Centre of Excellence for Gastrointestinal Inflammation and Immunity Research (CEGIIR), University of Alberta)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Alice Sarah Day, Anissa M. Armet, Srinivas Kamath, et al. Microbiome-targeted dietary therapy in health and disease: Challenges, opportunities, and pathways forward. Gut Microbes Reports 2026-10-09. DOI: 10.1080/29933935.2026.2744027. 原著ライセンス:CC BY.