「1日にどれくらい牛乳・乳製品を飲めばよいのか」という問いに、実は明確な世界共通の答えはありません。例えば米国の食事ガイドラインは1日3カップ相当の乳製品摂取を推奨していますが、別の栄養情報源(ニュートリション・ソース)は1〜2食分程度にとどめることを勧めています。同じ「健康のため」という目的でありながら、なぜ推奨量にこれほど差があるのでしょうか。今回紹介する論説は、この疑問を欧米とアジアの集団における研究結果の違いという切り口から検討したものです。

この論説によれば、現在の乳製品摂取に関するガイドラインの根拠となるエビデンスの多くは、もともと牛乳の摂取量が多い欧米集団を対象とした研究に由来しているといいます。つまり「牛乳をよく飲む集団」で得られた知見が、そのまま世界共通の推奨に反映されてきた可能性があるということです。著者らは、欧米集団とアジア集団それぞれにおける牛乳摂取と健康アウトカムに関するエビデンスを比較検討しています。その結果、研究間で見られる結果の違いは、単に人種や民族的な背景の違いだけによるものではなく、そもそもの牛乳摂取量(ベースライン摂取量)の違いや、他の要因が結果に影響してしまう「残余交絡」と呼ばれる問題、さらには対象となった集団そのものの特性の違いなど、複数の要因が絡み合って生じている可能性があると論じられています。

この論説の位置づけと読むうえでの注意

この記事は個別の追跡調査データを新たに示した研究ではなく、既存のエビデンスを整理し論点を提示する「コメンタリー(論説)」として紹介されています。そのため、特定の数値や具体的な健康アウトカムの詳細については要旨の中では触れられておらず、本記事でもそれ以上の踏み込んだ紹介は控えています。重要なのは、牛乳摂取と健康の関係を論じる研究が、どの集団を対象にしたものかによって結果の解釈が変わりうるという指摘です。著者らは、食事ガイドラインを検討する際には、対象となる集団ごとのベースラインの摂取量や、その集団を取り巻く背景的な要因を考慮すべきだと述べています。

牛乳や乳製品の摂取量に関するガイドラインは国や地域によって差があることが知られていますが、その背景には、今回のようにエビデンスの土台となった研究対象集団の違いが関わっている可能性があります。一つの論説が示す視点であり、これによって特定の摂取量が「正解」だと確定したわけではない点には留意が必要です。

まとめ

牛乳・乳製品の摂取に関する推奨量が国や情報源によって異なる背景には、エビデンスのもとになった研究対象集団(欧米かアジアか、ベースラインの摂取量がどの程度かなど)の違いが関わっている可能性がある、という論点がこの論説では提示されています。健康と食事の関係を考えるうえで、「どの集団のデータに基づいた推奨なのか」という視点を持つことの大切さを示唆する内容といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:欧米集団とアジア集団における牛乳摂取と健康アウトカム(パブリックヘルス・ニュートリション)