「人生の最終段階で、どこまで栄養や水分の補給を続けるべきか」という問いは、超高齢社会を迎えた日本において、医療現場だけでなく多くの家族にとっても身近なテーマです。点滴や経管栄養といった「人工栄養・水分補給」は、命をつなぐ手段である一方、終末期の患者にとって必ずしも快適さや本人の意向に沿うとは限らないとされ、緩和ケアの分野で議論が続いています。今回紹介する論文は、90歳以上という「超高齢者」に焦点を当て、実際の病院でどのような人工栄養・水分補給が行われていたのかを、電子カルテのデータから振り返って調べたものです。

研究でわかったこと

この研究は、日本のある地域病院で最期を迎えて亡くなった90歳以上の男女180人を対象に、電子カルテのデータベースを用いて行われた後方視的研究(過去の記録を振り返って分析する研究)です。対象者のうち59%は自宅から入院し、38%は救急搬送によって入院していました。

分析の結果、死亡が近づくにつれて、口から一切食べ物や水分をとらない「絶食」の状態にある患者の割合が増加していたことが示されました(統計的に意味のある差とされています)。また、口からの摂取や経管栄養を行っていない患者では、死亡が近づくにつれて1日あたりの輸液量やエネルギー量も減少していたということです。

一方で、亡くなる直前の最終週の状況を見ると、38%の患者が口から何も摂取せず末梢静脈からの点滴(末梢静脈栄養、PPN)を受けており、9%は皮下からの輸液を受けていました。すべての栄養補給を中止していた患者は2%にとどまっていたと報告されています。

これらの結果から著者らは、超高齢者の終末期において人工栄養・水分補給の量は全体として減少していたものの、緩和ケアの観点から見ると、この病院ではなお過剰であった可能性があると考察しています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、日本国内の一つの地域病院における電子カルテデータをもとにした調査であり、対象者は90歳以上に限られています。そのため、ここで得られた傾向がすべての病院や地域、あるいは異なる年齢層の患者にそのまま当てはまるとは限りません。また、後方視的な研究であるため、個々の患者や家族がどのような意向を持って栄養補給の方針を決めたのか、詳しい背景までは分からない点にも留意が必要です。あくまで一つの研究であり、これをもって結論が確定したわけではありません。

まとめ

今回の研究では、90歳以上の超高齢者が病院で最期を迎える過程において、死が近づくにつれて人工栄養・水分補給の量は減少していく一方、最終週になっても一定割合の患者が末梢静脈栄養などを受け続けていた実態が示されました。人生の最終段階における栄養・水分補給のあり方は、医療の質だけでなく、本人や家族の意向、緩和ケアの考え方とも深く関わるテーマです。今後、こうした実態調査を踏まえて、超高齢者にとってより望ましいケアのあり方について、さらに議論や研究が重ねられていくことが期待されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:日本の地域病院における終末期「超高齢者」に対する人工栄養・水分補給(ジャーナル・オブ・ホスピタル・ジェネラル・メディシン・2026年03月)