にんじんや緑野菜がβ-カロテンの代名詞として語られることは多いですが、成分表のデータを眺めると、上位を占めるのは全く別の顔ぶれです。まず「β-カロテン当量」とは何かを確認しておきましょう。β-カロテンは黄色やオレンジ色の色素成分で、体内でビタミンAのもとになる物質(プロビタミンA)です。「当量」とは、β-カロテンだけでなく、同じくプロビタミンAであるα-カロテンやβ-クリプトキサンチンについても、それぞれの転換効率を加味したうえでβ-カロテンとしての活性量に換算し、合算した値のことです。なお、β-カロテン当量はすでに各成分の転換効率を反映した値であり、そこからさらにビタミンA(レチノール活性当量)を求める場合には1/12の係数を適用します(α-カロテンやβ-クリプトキサンチンの転換率の差は、β-カロテン当量を算出する段階でそれぞれ反映済みです)。β-カロテン当量について、日本人の食事摂取基準では定量的な摂取基準(推奨量・目安量など)は設定されていません。
では、β-カロテン当量の多い食品の実態を成分表から見ていきましょう。
上位に並ぶ「乾燥した脇役たち」
トップに立つのはあまのり(ほしのり)で、可食部100gあたり43,000µgというβ-カロテン当量を持ちます。食卓でおなじみの板のりを乾燥させたものです。1枚(約4g)に換算すると約1,720µgに相当します。少量でも密度が高い食品ですが、一度に多くは食べないものでもあります。
第2位のあまのり(味付けのり)は32,000µgで、1パック(約3g)あたり約960µgです。味付け加工が入る分、ほしのりより値はやや下がりますが、同じ「あまのり」という素材であることに変わりはありません。
第3位はまつも(素干し)で30,000µg。まつもは日本沿岸に生育する海藻で、素干しにした乾燥品です。あまのりほどスーパーでは目にしませんが、データ上はトップ3に並びます。
第4位に登場するのが抹茶(茶)で29,000µg。緑茶の葉を丸ごと粉末にした抹茶は、旨み成分テアニンやカテキンでも知られますが、β-カロテン当量でも上位に入ります。小さじ1(約2.8g)あたりでは約812µgです。菓子作りや料理に使う際も、こうした成分が丸ごと摂れる点はこの食品ならではの特徴です。
第5位は2食品が同値で並びます。
一方はいわのり(素干し)で28,000µg。岩場に付着する海藻を乾燥させたもので、1枚(目安として約10g)あたり約2,800µgに相当します。まつもと同じく素干し海藻ですが、1枚あたりの重量がほしのりより重い分、一度の食事で摂れる量のスケールが変わってきます。
もう一方がパセリ(乾)で、こちらも28,000µgです。日本食品標準成分表(八訂)では生のパセリのβ-カロテン当量は7,400µg(可食部100gあたり)とされており、乾燥パセリはその約3.8倍(28,000µg)の密度になる計算で、乾燥による水分の抜けが数値に直結しています。パセリは香辛野菜の一種で、香り成分アピオールを含むのが特徴です。乾燥パセリは小さじ1が約2gと軽く、一度に多くは使いませんが、小さじ1あたりでも約560µg相当を含む計算です。なお、妊娠中の方は乾燥パセリの大量摂取を避け、医師・管理栄養士にご相談ください。
「脇役・乾物」という共通点
上位6品を並べると、共通するパターンが見えてきます。あまのり・まつも・いわのりの3種は海藻の乾物、抹茶は茶葉を丸ごと粉末にしたもの、乾パセリは野菜の乾燥品です。いずれも「水分を大幅に飛ばした乾燥品」であり、重量あたりの成分密度が生鮮品より格段に高くなっています。そして食卓での立ち位置は、ごはんに巻く・料理に振りかける・お茶として一杯飲むといった「脇役」や「添え物」にとどまりがちです。
β-カロテン当量について、日本人の食事摂取基準では推奨量は設定されていないため、「1日に何µg摂るべきか」という明確な目安はありません。ただ、これだけ密度が高い食品が日常の脇役として食卓にあることは、知っておく価値があります。
小さじ1・1枚のりを、もう少し意識してみる
「にんじんを食べれば十分」と漠然と思っていると、データはそれを静かに裏切っています。板のり1枚、乾パセリ小さじ1、抹茶一杯――特別な食材ではなく、今すでに手元にある脇役の中に、β-カロテンの高密度な供給源が揃っています。料理の彩りやお茶の時間を、少し違う目で見直してみるきっかけになるかもしれません。
参考:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)」、厚生労働省「日本人の食事摂取基準」
栄養素のはたらきの記述は、次の公的資料に基づきます:文部科学省 食品成分データベース
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。