健康な食生活を考えるうえで「微量栄養素」という言葉を耳にすることが増えています。なかでもセレン(Se)や亜鉛(Zn)は、体内で酸化ストレスに対抗する仕組み(抗酸化防御)に関わるミネラルとして知られています。近年、こうした微量栄養素をあえて豊富に含ませた「バイオフォーティファイド(生物学的強化)食品」の研究が進んでおり、今回紹介する論文では、セレンや亜鉛を強化したヒヨコマメが、非アルコール性脂肪肝疾患(MAFLD)に関連する代謝の乱れにどのような影響を与えうるかを、細胞を使った実験で調べています。
研究でわかったこと
研究チームは、ヒヨコマメの種子を亜セレン酸ナトリウム(Na2SeO3)、硫酸亜鉛(ZnSO4)、セレン酸亜鉛(ZnSeO3)、あるいはその組み合わせ(ZnSO4+Na2SeO3)を用いて発芽させ、それぞれを粉末に加工しました。さらにこの粉末を人の消化管での消化を模した処理にかけ、「強化ヒヨコマメ消化物(BCD)」と呼ばれる試料を得ています。タンパク質やペプチドの構造を調べる分析(SDS-PAGEやFTIRという手法)では、処理の種類によって成分の構造に違いが生じることが確認され、また硫酸亜鉛で処理した試料ではイソフラボンの含有量が高くなる傾向が見られました。
次に、オレイン酸という脂肪酸を使って人為的に脂肪の蓄積を誘導したHepG2細胞(肝臓由来の培養細胞)を用いて、MAFLDのような状態を再現したモデル実験が行われました。脂肪蓄積が起こる「前」にこれらの消化物を与えた条件では、ZnSeO3で処理した試料を除くすべての処理で、中性脂肪の蓄積が17.1〜38.6%抑えられたと報告されています。また、強化していない通常のヒヨコマメ粉末(GC)とZnSeO3処理の試料は、脂肪の分解(リポリシス)とグリセロール放出により大きな効果を示したとされています。全体としてセレンで強化した試料は、細胞内の酸化還元バランスに関わる指標を1.2〜1.3倍程度変化させ、脂質利用の改善につながる可能性が示唆されています。
一方、脂肪蓄積が起きた「後」に消化物を与える条件では、GCとZnSO4+Na2SeO3の試料が中性脂肪の蓄積をそれぞれ21.1%、20.5%減少させたとされています。さらに、いずれの条件においても、強化ヒヨコマメ消化物は炎症に関わるサイトカインであるIL-6のレベルを25.1〜34.7%低下させたと報告されており、免疫調節に関わる可能性が示されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、培養した肝臓由来の細胞を用いたモデル実験に基づくものであり、ヒトの体内で同様の効果が得られるかどうかを直接示したものではありません。あくまで一つの基礎研究の結果であり、結論が確定したわけではない点に留意が必要です。また、処理方法(どのミネラルをどう組み合わせるか)によって効果の現れ方に違いがあったことも報告されており、単純に「ヒヨコマメを食べればよい」という話ではなく、加工プロセスを含めた食品設計の観点からの研究であるといえます。
まとめ
今回紹介した研究では、セレンや亜鉛で強化したヒヨコマメの消化物が、脂肪肝を模した培養細胞モデルにおいて、中性脂肪の蓄積抑制や炎症性サイトカインの低下など、複数の代謝異常に関連する変化を示したことが報告されました。研究チームは、こうしたヒヨコマメのZn/Se強化が、微量栄養素不足への対策や、肝臓の健康に関わる機能性食品素材の開発に向けた一つの有望なアプローチになりうるとしています。今後、ヒトでの検証を含むさらなる研究が期待される分野といえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:セレンおよび亜鉛強化ヒヨコマメによる非アルコール性脂肪肝疾患(MAFLD)関連代謝異常の予防・改善効果(フーズ・2026年07月)