著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:400年続く在来ナシを「果実そのもの」で見分けられるか

中国山西省高平県で400年以上栽培されてきた在来品種のナシ「高平大黄梨(ガオピン・ダーホワンリー)」は、2013年に国の地理的表示(GI)産品に指定されました。地理的表示とは、特定の産地と結びついた品質や評判をもつ産品の名称を保護する制度です。論文によると、この梨は黄緑色の果皮、非常に硬い果肉、甘酸っぱい風味をもち、貯蔵や加工に向くため、模倣の対象にもなりやすいといいます。

一方で、地理的表示の取り締まりは産地を示す書類に頼っています。本物の大黄梨と、その名で売られる安価な商業品種を果実の性質から見分ける客観的な化学的検査は、これまでありませんでした。研究チームは、大黄梨がほかのナシと化学的にどう違うのかを明らかにし、それを市場での判別に使える手がかりにできるかを探りました。

何を調べたか:5品種のナシの成分を網羅的に比較

著者らは、大黄梨と、中国で広く栽培される4つの商業品種を比較しました。4品種は、庫爾勒香梨、京白梨、セイヨウナシ(Pyrus communis)の「Clapp's Favorite」、ニホンナシと同じ種(Pyrus pyrifolia)の「秋月」です。これら4品種は中国の主要な栽培ナシの種をそれぞれ代表しています。論文は、市場で代替品として使われうる幅広い品種を想定して選んだと説明しています。どの比較相手に対しても多い成分であれば、特定の1組の比較による偶然の産物である可能性は低いという考え方です。

分析には「ワイドリーターゲット・メタボロミクス」と呼ばれる手法を用いました。これは、液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせ、大規模な化合物ライブラリーと照合する方法です。果実に含まれる数百から数千の代謝物(生体内でつくられる小さな分子)を一度に調べることができます。2024年の1シーズンに収穫した果実を、品種ごとに3つの試料にまとめて分析しました。あわせて、果実の硬さ、糖や酸の量、果皮の色など8つの品質項目も測定しました。

なお論文は、比較相手が別の種である点を明記しています。そのため、見つかった違いが「大黄梨という品種に固有のもの」なのか「種の違いによるもの」なのかは切り分けられません。また、化合物の同定は標準物質との直接照合を行っていない推定的なものとされています。こうした理由から、報告された指標はあくまで候補として扱われています。

主な結果:フラボノイドとテルペノイドに特徴、硬さと「低糖・高酸」も際立つ

研究チームは2335の代謝成分を検出しました。そのうち136種類が、4つの比較品種のいずれと比べても大黄梨で一貫して多いことを報告しています。大黄梨で少ない成分は除き、多い成分だけを選びました。ある成分が少ないことは熟度や保存、加工でも起こりうるため、品種の証拠になりにくいからだと説明されています。

この136種類の半分以上を占めたのは、フラボノイド(48種類)とテルペノイド(25種類)でした。フラボノイドは植物の色素などとして知られ、テルペノイドには植物の香りや表皮の成分などが含まれます。なかでもフラボノイドは、検出された成分全体での割合に比べて有意に多く含まれていました。著者らは、大黄梨の特徴は新しい種類の化学物質というより、既存の代謝経路の成分が集中的に多いことにあると述べています。最も差が大きかったのは、イソフラボンの一種と推定されるソフォラビオシドでした。4品種との比較のうち最も小さい差でも、約120.7倍多いと報告されています。

品質面では、大黄梨は5品種で最も果肉が硬く(7.27 kg/cm²)、果皮の黄色みも最も強いことが示されました。また、可溶性糖が最も少なく、酸が比較的多いという特徴もありました。その結果、可溶性糖と滴定酸度の比(糖酸比)は38.6となり、ほかの品種(54.8〜163.2)と大きく離れていました。

研究チームは、果肉の硬さには果実表面の成分として知られるトリテルペン類が、黄色い色調には特定のフラボノイド類が関わっている可能性を挙げています。ただし、これらは仮説として示されたものです。品質項目と成分群の相関も、5品種の平均値に基づく探索的な分析で、確かめられた関係ではないとされています。

提案された判別の枠組みと、この研究の意味

これらの結果をもとに、著者らは二段階の判別の枠組みを候補として提案しました。第一段階は、現場で測れる二つの指標を組み合わせたふるい分けです。果肉の硬さが6.5 kg/cm²を超え、かつ糖酸比が45未満であることを目安にします。第二段階では、疑わしい試料を実験室で分析し、大黄梨で10倍を超えて多かった32種類の候補成分と照合します。必要に応じて、残り104種類の成分の傾向も参照します。

ただし、これらの基準値は今回のデータから求めたもので、このデータに特有のものとされています。硬さの基準では、本物の大黄梨の一部が下回る例もありました。そのため論文は、境界付近の試料は不合格とせず、実験室での確認に回すべきだと述べています。研究全体についても、複数年・複数の果樹園での検証を待つ探索的な結果と位置づけられています。

これまで産地の書類に頼って保護されてきた在来ナシについて、この研究は初めて成分の面から客観的な化学的特徴を示したと報告しています。手頃な現場測定と詳細な化学分析を組み合わせ、地理的表示産品の偽装を見抜くための候補となる道具立てを描いた点に、この研究の意味があるといえます。

原著論文の著者・所属:Ke Li(College of Horticulture, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China; Infrastructure Division, Shanxi Normal University, Taiyuan 030031, China)、Huilan Wang(Shanxi Inspection and Testing Center (Shanxi Institute of Standards and Metrology), Taiyuan 030032, China; Shanxi Key Laboratory of Food and Drug Safety Prevention and Control, Taiyuan 030032, China)、Ting Cao(College of Horticulture, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)、Guozhen Wang(Shanxi Inspection and Testing Center (Shanxi Institute of Standards and Metrology), Taiyuan 030032, China; Shanxi Key Laboratory of Food and Drug Safety Prevention and Control, Taiyuan 030032, China)、Yanjun Cheng(Shanxi Inspection and Testing Center (Shanxi Institute of Standards and Metrology), Taiyuan 030032, China; Shanxi Key Laboratory of Food and Drug Safety Prevention and Control, Taiyuan 030032, China)、Yuqin Song(College of Horticulture, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)、Xinxin Feng(College of Horticulture, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)、Liulin Li(College of Horticulture, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ke Li, Huilan Wang, Ting Cao, et al. Candidate Metabolomic Biomarkers of the Geographical-Indication Pear Gaoping Dahuangli (Pyrus bretschneideri Rehd.): An Exploratory Widely Targeted Metabolomics Study. Foods 2026-09-27. DOI: 10.3390/foods15193457. 原著ライセンス:CC BY.