スーパーに並ぶ牛乳や肉、魚介類。これらの生鮮食品が私たちの手元に届くまでには、生産者から加工、輸送、保管、販売に至る長い「サプライチェーン」があります。しかし近年、技術的なトラブルや需要の急な変動、設備の故障、人手不足など、さまざまな要因でこの流れが滞ることが増えていると指摘されています。生鮮食品は傷みやすいという特性上、こうした混乱の影響を特に受けやすい分野です。今回紹介する論文は、こうした生鮮食品サプライチェーンの「もろさ」に対して、ブロックチェーンやIoT、AIといったデジタル技術がどのように役立ちうるのかを分析した研究です。
研究でわかったこと
この研究では、「DEMATEL」という分析手法を用いて、生鮮食品サプライチェーンを混乱させる主な要因を洗い出し、それぞれの重要度や関係性を整理しています。専門家からの意見をもとにした定量的な分析を通じて、業務上の問題、外部要因、管理上の課題という3つの領域にまたがる10種類の主要な障壁が特定されたと報告されています。
さらに研究では、これらの障壁に対してデジタル技術がどのように働きかけられるかについても検討されています。具体的には、ブロックチェーンによる食品の追跡、IoT(モノのインターネット)によるリアルタイムの状態監視、AIによる需要予測といった技術が、サプライチェーンの混乱による影響を和らげる可能性があると示唆されています。これらの技術を導入することで、サプライチェーンがより柔軟に対応できるようになる可能性があるとされています。
また、この研究ではリスクの種類によって対応策を分けて考える視点も示されており、乳製品、食肉、水産物といった品目ごとのサプライチェーンについて、レジリエンス(回復力・強靭性)を高めるための具体的な戦略が提案されています。全体として、生鮮食品分野におけるデジタル変革を進める上での因果関係を整理した枠組みが提示されたとまとめられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この論文は、専門家の意見をもとにした分析手法(DEMATEL)を用いた一つの研究であり、実際のサプライチェーンで技術を導入した際の効果を直接測定したものではない点に留意が必要です。ここで示された知見は、政策立案者や業界関係者、実務者、そして今後の理論構築に向けた示唆として位置づけられており、特定の技術の導入がただちに問題を解決すると断定するものではありません。今後、実際の現場でこうした知見がどのように活用され、検証されていくのかが注目されます。
まとめ
生鮮食品が私たちの食卓に届くまでの流れは、思っている以上に多くの要因によって左右されています。今回紹介した研究では、その流れを乱す主な要因を整理した上で、ブロックチェーンやIoT、AIといったデジタル技術が生鮮食品サプライチェーンの強靭化に貢献しうることが示唆されました。食の安定供給を支える仕組みの裏側に目を向けるきっかけとして、興味深い研究といえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:デジタル化による生鮮食品サプライチェーンのレジリエンス強化:主要な混乱要因と技術的介入策のDEMATEL分析(ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・アンド・フード・リサーチ・2026年07月)