手術を繰り返して小腸が短くなった患者さんにとって、追加の手術は大きなリスクを伴います。もしこれ以上腸を切除すれば、栄養の消化・吸収がうまくできなくなる「短腸症候群」につながりかねないからです。今回紹介する症例報告は、そうした状況に置かれた患者に対して、特定の栄養素を含む経口栄養補助食品を用いた保存的治療(手術をしない治療法)を行ったところ、傷の治癒が進み、結果的に再手術を回避できた可能性がある、という一例を報告したものです。医学誌『キュレウス』に2026年07月に掲載予定です。

どのような症例だったのか

報告されたのは39歳の女性患者です。14歳のときにクローン病と診断され、これまでに複数回の手術を受けてきました。その結果、残っている小腸は150cmとかなり短くなっており、人工肛門(空腸瘻)が作られていました。

その後、この患者は早産のため帝王切開を受けましたが、術後に腸が癒着して詰まる「癒着性腸閉塞」を発症しました。保存的治療では改善しなかったため、開腹手術が行われました。手術中、小腸に広範囲の損傷が2か所見つかりましたが、これ以上腸を切除すると短腸症候群のリスクが高まるとの懸念から、切除はせず縫合による補強処置が選択されました。

ところが、その縫合部分がうまくつながらず(縫合不全)、同じ場所に腸と傷口をつなぐ瘻孔(ろうこう、体内の管状の穴)ができてしまいました。患者本人が保存的な治療を希望したため、腸液を持続的に吸引しながら、カルシウム・β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(CaHMB)、L-アルギニン、L-グルタミンを含む経口栄養補助食品(Abound™、アボットジャパン合同会社)を摂取する治療が行われました。

治療の経過として報告されたこと

この飲料の摂取後、傷の治癒に関わる肉芽組織(にくげそしき)の形成が明らかに増加し、瘻孔が狭くなっていったと報告されています。腸液の排出は摂取開始から13日後に止まり、16日目には食事の再開が可能になりました。患者は22日目に退院し、傷は36日目に治癒したとされています。

著者らは、この経過について、CaHMB・アルギニン・グルタミンを含む栄養補助食品の使用が、短腸症候群につながりかねない再手術を回避する助けになった可能性がある、と述べています。

この報告を読むうえで知っておきたいこと

この報告はあくまで一人の患者における症例報告であり、同じ治療を行えば誰にでも同様の効果が得られる、ということを示すものではありません。症例報告は特定の状況で何が起きたかを詳しく記録するものであり、治療法の効果を科学的に証明する比較試験とは性質が異なります。今回のケースでも、腸液の持続的な吸引という処置と栄養補助食品の摂取が並行して行われており、どの要因がどの程度治癒に寄与したかを明確に切り分けることはできません。あくまで一つの症例であり、結論が確定したわけではない点に留意する必要があります。

まとめ

今回の症例報告では、クローン病により小腸が短くなっていた患者が、術後の腸瘻に対してCaHMB・アルギニン・グルタミンを含む経口栄養補助食品を用いた保存的治療を受け、瘻孔の治癒と再手術の回避につながった可能性がある経過が紹介されました。今後、こうした栄養補助のアプローチがどのような患者にどの程度有効なのかを明らかにするには、さらなる症例の蓄積や研究が必要といえるでしょう。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:カルシウム・β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(CaHMB)、L-アルギニン、L-グルタミンを含む経口栄養補助食品の使用が短腸症候群につながりうる手術回避に寄与した可能性:症例報告(キュレウス・2026年07月)