バターや肉の脂身が飽和脂肪酸の代表格だと思っていたなら、日本食品標準成分表(八訂)の数字は、その前提をあっさり覆す。可食部100gあたりの含有量を多い順に並べると、1位も2位も3位も、動物性の食品ではない。しかも上位3品を眺めて気づくのは、それが単なる「意外な植物油」の話ではないということだ。

上位3品を貫く、一本の糸

第1位はやし油(可食部100gあたり83.96g)。ココヤシの実の胚乳を乾燥させた「コプラ」から搾る植物油で、脂質全体の8割以上が飽和脂肪酸という計算になる。

第2位はパーム核油(同76.34g)。こちらはアブラヤシの種子から得られる。原料の木は異なるが、アブラヤシもヤシ科の植物だ。飽和脂肪酸は全体の7割以上を占める。

第3位はココナッツパウダー(同55.25g)。ヤシの実の胚乳を乾燥させて粉末にした食材で、脂質量そのものは65.8gと1・2位の100.0gより少ないにもかかわらず、飽和脂肪酸の絶対量55.25gは4位以下を上回る。

ここで並びを整理すると、やし油(ヤシ科・ヤシ属)、パーム核油(ヤシ科・アブラヤシ属)、ココナッツパウダー(ヤシ科・ヤシ属)——上位3品はすべてヤシ科の植物に由来する。これが今回のデータを貫く隠れた糸だ。「植物油の意外な真実」という話ではなく、「ヤシ科植物が飽和脂肪酸を極端に濃縮する構造」という話である。

ではバターは何位か

第4位で、ようやく動物性の油脂が現れる。食塩不使用バター(無塩バター)(同52.43g)。「飽和脂肪酸の代表格」として語られることの多いバターが、やし油(83.96g)と比べると約31gも下回る。大さじ1杯(約12g)のバターに含まれる飽和脂肪酸は約6.3gと決して少なくないが、今回の上位5品のなかでは下から2番目に位置する。

第5位は製菓・製パン用ショートニング(同51.13g)。食用油脂を原料とし、パンやクッキーの生地にねり込むことでサクッとした食感を生む加工油脂で、業務用・製菓向けとして収載されている。消費者の目に直接触れにくいぶん、成分表で数字を確かめる機会も少ない。

「植物油脂」の表記の内側にいるのは誰か

日常の食卓で、やし油やパーム核油を瓶から直接使う人はほとんどいない。だがスナック菓子やマーガリン、インスタント食品の原材料欄に「植物油脂」と書かれているとき、その正体がパーム系の油——つまりヤシ科由来の油——であることは少なくない。やし油→パーム核油→ココナッツパウダーという上位3品は、産地も加工形態もバラバラに見えて、実は同じ植物ファミリーが形を変えて加工食品に入り込んでいる姿だ。

ただし、正直に言えばこのランキングにはまだ見えていない部分がある。成分表は可食部100gあたりの数字であり、私たちが実際に一日でどれだけヤシ系の飽和脂肪酸を口にしているか——その摂取量の実態は、別の調査が必要になる。

飽和脂肪酸と上手に付き合うために

飽和脂肪酸はエネルギー源になる一方、摂りすぎると血中の総コレステロールやLDL(いわゆる「悪玉」)コレステロールが増えることが報告されており、高LDLコレステロール血症など循環器疾患の危険因子の一つとされている。その影響の大きさは脂肪酸の種類によっても異なるとされ、まだ解明途上の部分もある。日本人の食事摂取基準では飽和脂肪酸に「目標量」が示されており、男女共通で18歳以上は摂取エネルギーの7%以下、15〜17歳は8%以下、3〜14歳は10%以下とされている。栄養成分表示を活用する際に摂りすぎへ注意を払うことも、消費者庁が案内しているとおりだ。

今夜、手元のスナック菓子の原材料欄を一度だけ開いてほしい。「植物油脂」の4文字の向こうに、どの植物がいるか——その問いを持つだけで、食品表示の読み方が変わる。そして日本人が加工食品を通じて知らずに摂っているヤシ系飽和脂肪酸の総量は、またいつか数字で確かめたい問いとして、ここに残しておく。

※この記事は食品成分データの傾向を紹介するもので、特定の食品の健康への効果や影響を示すものではありません。

参考:消費者庁「栄養成分表示を活用しよう」、日本人の食事摂取基準、日本食品標準成分表(八訂)

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。

栄養素のはたらきの記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省e-ヘルスネット「不飽和脂肪酸」(厚生労働省)