果物由来の色素成分「アントシアニン」は、ブルーベリーやカシスなど濃い紫色の果物に多く含まれることで知られています。近年、スポーツ栄養の分野では、こうしたアントシアニンを豊富に含むブラックカラント(カシス)抽出物が、運動中の体内の代謝反応に影響を与える可能性が研究されてきました。今回紹介する論文は、東南アジアのエリート女性長距離選手1名を対象に、このブラックカラント抽出物を摂取した際の心臓の働きや代謝の変化を詳しく調べた症例研究です。
白人男性選手での先行知見を、女性選手でも確認
これまで、白人で暑熱順化していない男性の持久系アスリートを対象とした症例研究では、アントシアニン豊富なブラックカラント抽出物の摂取によって、運動時の脂肪酸化が高まるなど、代謝反応に変化が見られたことが報告されていました。今回の研究では、こうした知見が異なる背景を持つ選手にも当てはまるのかを確かめるため、タイで屋外生活・トレーニングを行う48歳のエリート女性長距離選手(BMI 19.3、体脂肪率21.8%、最大酸素摂取量44.4 mL·kg⁻¹·min⁻¹、2017年以降にマラソン28回完走という実績を持つ選手)を対象としました。
研究でわかったこと
この研究では、マラソン大会の2〜3週間前に、1日420mgのアントシアニンを含むブラックカラント抽出物を7日間摂取してもらい、単盲検・プラセボ対照デザインで効果を検証しました。抽出物の最終摂取はトレッドミル走行開始の2時間前に行われ、非侵襲的な心拍動ごとの血行動態モニタリング(PhysioFlow®)と呼気ガス分析(Cortex Metalyzer 3B)を用いて、仰向け安静時と、最大酸素摂取量の50%強度(時速7.5km)での1時間の屋内トレッドミル走行(室温約24.5℃、湿度約42%)中の反応が測定されました。走行終了3分後には血中乳酸値も測定されています。
安静時には、プラセボと比較してブラックカラント抽出物の摂取条件で、心拍数が6拍/分高く、心拍出量が10%高く、炭水化物酸化が31%高く、呼吸交換比が0.02単位高い一方、全身血管抵抗は18%低いという結果が示されました。1回拍出量、酸素摂取量、脂肪酸化については、両条件で同程度だったとされています。
1時間のトレッドミル走行中には、抽出物の摂取条件でプラセボと比べて、1回拍出量が9%高く、心拍出量が10%高く、酸素摂取量が6%高く、炭水化物酸化が43%高く、呼吸交換比が0.03単位高い一方、全身血管抵抗は24%低く、脂肪酸化は7%低いという結果が報告されています。心拍数と主観的運動強度(きつさの感じ方)については、両条件で同程度だったとされました。さらに、走行後の血中乳酸濃度は、プラセボ条件(1.7±0.1 mMol·L⁻¹)と比べて抽出物摂取条件(0.7±0 mMol·L⁻¹)で59%低かったことが示されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
著者らは、高度に持久系トレーニングを積んだエリートの東南アジア人女性選手が、ブラックカラント抽出物の摂取に対して生理的な反応を示したという予備的な観察が得られたとしています。1日420mgのアントシアニンを7日間摂取することで、安静時および中強度走行時の心血管・代謝・呼吸反応に変化が見られ、走行後の乳酸値低下も伴っていたと報告されています。ただし、こうした変化の背景にあるメカニズムは明らかになっておらず、対象者が1名のみの探索的な研究であることから、結果の解釈には慎重さが求められると著者らは述べています。あくまで一つの症例研究であり、この結果だけで一般的な結論が確定したわけではない点に注意が必要です。
まとめ
今回の症例研究では、エリート女性長距離選手1名において、ブラックカラント抽出物の摂取が安静時・運動時の心臓の働きや代謝反応に関連していた可能性が示唆されています。特に運動後の乳酸値の低下は興味深い観察ですが、対象者が1名のみの探索的な研究であるため、メカニズムの解明や、より多くの人を対象とした研究による確認が今後求められると考えられます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:アントシアニン豊富なブラックカラント抽出物が安静時およびトレッドミル走行時の心血管・代謝反応に及ぼす影響:東南アジアのエリート女性長距離選手における症例研究(フロンティアーズ・イン・スポーツ・アンド・アクティブ・リビング・2026年07月)