著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
「バランスの良い食事は脳にいい」――そんな話を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。実際、加齢に伴う認知機能の低下(いわゆる「もの忘れ」や認知症のリスク)には、食事や睡眠、運動といった生活習慣が関わっている可能性が指摘されてきました。こうした背景から、食事内容を点数化して健康リスクを評価する「食事スコア」が数多く考案されています。
ただし、従来の多くのスコアには一つの特徴がありました。それは、「この食品を多く食べるほど点数が上がる(または下がる)」というように、摂取量と評価の関係を単純な直線(線形)で仮定している点です。今回紹介する研究は、この「直線で評価する」という前提そのものを見直し、より精度の高い新しい食事評価の方法を探ったものです。
研究でわかったこと
研究チームは、28,968人(平均年齢56.3歳、年齢範囲16歳から100歳)分の自己申告による食事データを対象に分析を行いました。参加者にはあわせて、信頼性が確認されているオンライン認知機能テストを受けてもらい、その成績と食事内容との関係を調べています。
解析には「エラスティックネット回帰」と呼ばれる統計手法が用いられました。これは多数の食品項目の中から認知機能テストの成績を予測するうえで重要な要因を選び出し、しかも予測の偏り(バイアス)を抑えるように工夫された手法です。こうして作られた新しい指標は、研究チームによって「BRAiN(Bias-reduced Regression Analysis in Nutrition)スコア」と名付けられました。
あらかじめ一部のデータを取り分けておいて予測精度を検証したところ、このBRAiNスコアは、MIND食(地中海式食事とDASH食を組み合わせた、神経変性疾患の予防を意図した食事パターン)に関連する変数を用いた従来型の線形食事スコアと比べて、認知機能テストの成績をより高い精度で予測できたと報告されています。
さらに注目すべき点として、ほとんどの食品において、摂取量と認知機能の関係は単純な直線ではなく、非線形(摂取量に応じて関係の強さや向きが変化するようなパターン)であることが示されました。具体的には、動物性・植物性タンパク質、野菜、ナッツ・種子類、全粒穀物を多く摂取していることは認知機能と正の関連(良い方向の関連)を示した一方で、精製された脂肪や精製された炭水化物を日常的に摂取していることは、認知機能と負の関連(あまり良くない方向の関連)を示したとされています。
加えて研究チームは、年齢によって食事パターンが変化する傾向があることにも触れており、栄養疫学における食事と認知機能の関係の一部は、こうした「年齢に伴う食習慣の変化」によって影響を受けている(交絡している)可能性があると考察しています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究で示されたのは、あくまで食事内容と認知機能テストの成績との「関連」であり、特定の食品を食べることで認知機能の低下が防げる、あるいは改善するといった効果が証明されたわけではない点には注意が必要です。要旨の表現も「関連が示された」「予測精度が上回った」というものであり、因果関係を断定するものではありません。
また、この研究の食事データは参加者自身の申告に基づくものであり、認知機能も特定のオンラインテストの成績を用いています。研究チームは、今回開発したようなデータ駆動型のモデルは、集団レベルでの食習慣の変化に合わせて随時調整していくことが可能であり、将来的に効果的な栄養ガイドラインの設計に役立てられることを期待しているとしています。あくまで一つの研究であり、これのみで結論が確定したわけではない点を踏まえて読んでいただければと思います。
まとめ
今回紹介した研究では、約29,000人分の自己申告食事データと認知機能テストの結果をもとに、従来の直線的な食事スコアよりも予測精度に優れるとされる新しい指標「BRAiNスコア」が開発されました。動物性・植物性タンパク質、野菜、ナッツ・種子類、全粒穀物の摂取は認知機能と正の関連を、精製脂肪・精製炭水化物の摂取は負の関連を示したとされていますが、これらはあくまで関連であり、断定的な健康効果を示すものではありません。食事と脳の健康との関係を考えるうえでの一つの手がかりとして、今後の研究の展開が注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):栄養学におけるバイアス低減回帰分析(BRAiN)指数:自己申告食事と予測認知機能(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)
著者:Federica Conti(Human Performance Center, Parker University, Dallas, TX, United States)、Kevin A. Gluck(Institute for Human and Machine Cognition, Pensacola, FL, United States)、Andrea Stocco(Department of Psychology, University of Washington, Seattle, WA, United States)、Andrea Stocco(Institute for Learning and Brain Sciences, University of Washington, Seattle, WA, United States)、Thomas R. Wood(Institute for Human and Machine Cognition, Pensacola, FL, United States)、Thomas R. Wood(Department of Pediatrics, University of Washington, Seattle, WA, United States)