ダチョウ肉は牛肉に近い赤身の味わいを持ちながら脂肪が少ないとされ、近年は新しい食肉資源として注目されています。今回紹介するのは、そんなダチョウ肉を使ったイタリア風の熟成サラミについて、原料の配合や熟成期間が品質にどう影響するかを詳しく調べた研究です。特にこの研究では、亜硝酸塩・硝酸塩を使わない「クリーンラベル」処方で作られており、健康志向の消費者ニーズを意識した設計になっている点が特徴です。
サラミ作りというと単純そうに思えますが、実は脂肪の量や塩分濃度、発酵を担うスターター菌の種類によって、風味や食感、保存性が大きく変わります。今回の研究チームは、豚の背脂肪の配合割合(脂肪30%のFAT30、脂肪40%のFAT40)、食塩濃度(2.4%と2.6%)、そして2種類のスターター培養菌の組み合わせ(乳酸菌と ブドウ球菌を組み合わせたLAB6とLAB8)という3つの条件を掛け合わせて、ダチョウ肉サラミを試作しました。なお、この実験は工業プラントではなく職人的な研究用施設で行われたため、各処方の組み合わせにつき1バッチのみで製造されたことが明記されています。
研究でわかったこと
熟成10週間の時点では、脂肪量の少ないFAT30のサラミは、脂肪量の多いFAT40と比べてpH、塩分含量、水分相塩分(WPS)、ビタミンE(α-トコフェロール)、遊離脂肪酸、そして脂質の二次酸化生成物であるTBARSの値が高いことが示されました。逆にFAT40のサラミでは、水分活性(aw)、水分とたんぱく質の比率(M:P)、脂質の一次酸化生成物である共役ジエン、そして非たんぱく態窒素(NPN)が高い値を示しました。
食塩濃度やスターター菌の違いも、いくつかの項目に影響していました。食塩2.4%のサラミは2.6%のものより遊離脂肪酸と共役ジエンの値が高く、また、LAB8を使ったサラミはLAB6よりも共役ジエンとNPNの値が高いという結果が報告されています。
官能評価(人の感覚による評価)では、脂肪量の違いがはっきりと現れました。FAT40のサラミは、ジビエ的な風味・金属臭・脂っぽさ・カビ臭といった、いわゆる「オフフレーバー(好ましくない風味)」の強さが全体的に高く、一方でやわらかさやジューシーさも高く評価されました。対照的にFAT30のサラミは、凝集性(まとまりの良さ)や熟成由来の風味がより強く感じられたということです。食塩を2.6%にした場合は、色の均一性や香りの強さ、そしてやや酸っぱいような熟成香(ランシッド香)が強まる一方、金属臭・脂っぽさ・カビ臭といった好ましくない風味は抑えられる傾向が見られました。またLAB6で作ったサラミは、LAB8のものよりオフフレーバーが強く感じられたとされています。さらに、これら3つの条件が組み合わさることで生じる相互作用も複数確認されたということです。
熟成期間を20週間まで延ばすと、10週間時点で見られた理化学的な傾向の多くは維持されていました。ただし、遊離脂肪酸と共役ジエンについては両方とも定量下限を下回るまで減少し、脂肪量による差は見られなくなったとのことです。官能面でも変化があり、FAT30とFAT40の間にあった好ましくない風味の差は時間とともに消える一方、FAT30サラミにおける熟成感・完熟感はむしろより強く感じられるようになったと報告されています。脂肪酸組成については、FAT30サラミは飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の割合が高く、FAT40サラミは一価不飽和脂肪酸の割合が高く、脂質の質を示す指標もより良好だったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ダチョウ肉という比較的新しい食肉資源を使い、無塩漬剤という条件下でどのような配合や工程が品質に影響するかを詳細に検討したものです。ただし、各処方の組み合わせについて1バッチのみでの製造という研究環境上の制約があったことが要旨で述べられています。これは職人的な研究施設での実験という位置づけによるものです。一つの研究であり、ここで得られた結果がすべての製造条件や規模に当てはまると結論づけられたわけではない点には留意が必要です。
まとめ
今回の研究では、豚背脂肪の配合割合、食塩濃度、スターター菌の組み合わせが、無塩漬剤ダチョウ肉サラミの理化学的な品質や風味・食感に影響を与えることが示されました。特に脂肪量の違いは、熟成初期の風味の差に大きく関わっていたものの、熟成が進むにつれてその差の一部は縮小していく一方、脂肪の少ない配合ではより強い熟成感が育まれていくという興味深い変化も見られました。新しい畜種を使った加工食品の設計を考えるうえで、参考になる知見と言えそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:イタリア風ダチョウサラミの配合と熟成期間:理化学的品質と官能特性への影響(フーズ・2026年07月)