6月の上旬、北海道の礼文島・利尻島の漁港が静かに活気づく。生ウニ、とりわけエゾバフンウニの漁が本格的に始まる時期だ。ウニの旬は産地によって異なるが、道北の礼文・利尻エリアでは6月から8月にかけてが最盛期にあたる。今まさに走りの鮮度が市場に出回る、食べどきの入り口である。
バフンウニという名は、その形状が馬糞に似ていることに由来する。見た目の印象とは裏腹に、身は濃い橙色で、甘みとコクが際立つ。ムラサキウニと並んで日本近海を代表するウニのひとつで、礼文・利尻の冷たい海で育ったものは身が引き締まり、風味が特に豊かだと言われる。
ひと皿に何が詰まっているか
ウニのむき身1個は約8g。うに丼1杯には30〜40g前後が盛られることが多く、2〜3貫の握りずしでも同程度の量になる。この一人前のスケールで成分を見ると、100gあたり16gというたんぱく質の数値の充実度がよくわかる。女性(30〜49歳)の1日推奨量(50g)の約32%が100gあたりに含まれる計算で、鮮魚に近い感覚で食べるものだが、たんぱく質の密度は赤身魚にも引けをとらない。
なかでも注目したいのが葉酸だ。100gあたり360µgという値は、日本人の食事摂取基準における女性(30〜49歳)の推奨量240µg/日の150%に相当する。葉酸はDNAなど核酸の合成を助け、細胞分裂を支える栄養素で、赤血球の形成にも関わる。特に妊娠を計画している女性や妊娠の可能性がある女性にとって重要とされている。水に溶けやすく光と熱に弱い性質があるため、鮮度のよいうちに生で食べられるウニは、葉酸を損なわずに摂りやすい食べ方といえる。うに丼1杯(約35g)に換算すると、葉酸は約126µg相当になる。
なお、この150%という数値は推奨量に対する割合であり、耐容上限量の基準ではない。葉酸は一般的な食品から摂る分には過剰摂取が問題になることはほぼないが、サプリメントなどの通常の食品以外からの大量摂取には別途注意が必要とされている。ウニをおいしく1〜2貫いただく程度であれば心配は無用だ。
コレステロールの数字と、食卓での受け止め方
ウニの話になると必ず出てくるのがコレステロールの話だ。100gあたり290mgという値は確かに高い。ただ、食品から摂るコレステロールの量と血中のコレステロール値との間には強い関係がないとされており、むしろエネルギーや飽和脂肪酸の過剰摂取の方が血中値に影響しやすいことが知られている。脂質は100gあたり4.8gと控えめで、カロリーも109kcalとそれほど高くない。旬のウニを適量楽しむことと、コレステロールの心配は切り離して考えてよいだろう。
6月のウニをいちばんおいしく食べる
走りのウニに何も足さない。これがいちばんの贅沢だ。炊きたての白飯にそっと乗せる「うに丼」は、素材の甘みをそのまま味わう北海道の定番であり、礼文・利尻の食堂でも定番の一皿として知られる。わさびと薄口醤油をほんの一滴添えるだけで十分だ。
茶碗蒸しの上にウニをひと粒乗せて蒸す食べ方も、家庭で試しやすくておすすめだ。加熱するとウニの甘みが卵と溶け合い、風味が立体的になる。葉酸は熱に弱いため、生で食べる方が栄養的には効率がよいとされるが、季節の料理として楽しむ一皿として申し分ない。
もうひとつ、昆布と合わせる組み合わせも道産ならではだ。礼文・利尻は昆布の産地でもある。利尻昆布でとった出汁のお吸い物にウニを浮かべると、磯の香りが重なって、北の海の夏を丸ごと椀に収めたような一杯になる。
旬の入り口で、小さな贅沢を
礼文の海が最も輝く季節が、ちょうど今始まろうとしている。エゾバフンウニのあの濃い橙色は、走りの今しか出会えない鮮度の証でもある。食べるたびに少し遠い北の海を思い浮かべながら、ひと粒の小さな贅沢を食卓に添えてみてほしい。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」・文部科学省 食品成分データベース(日本食品標準成分表八訂)
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。