著者の所属・活動拠点の国は、ドイツ、オランダです。

掲載誌:Ultrasonics Sonochemistry

ライセンス: CC BY-NC 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

すり身といえば、かまぼこやちくわなど日本の食卓に馴染み深い加工食品の原料です。一般的なすり身づくりでは、魚肉に一定量の塩を加えて筋原繊維タンパク質(筋肉を構成するタンパク質の一種)を溶かし出し、それを固めることで独特の弾力あるゲル状の食感を生み出しています。ところが、この工程には比較的高い塩分濃度が必要になることが多く、減塩志向が広がる中で課題となっています。

今回紹介する研究では、魚ではなく「ムラサキイガイ(ムール貝)」の身を使ったすり身づくりに焦点が当てられました。ムラサキイガイはタンパク質を豊富に含み、環境負荷も比較的小さいことから、持続可能なタンパク源の候補として注目されているそうです。ただし、ムラサキイガイの筋原繊維タンパク質は低塩条件では溶けにくいという性質があり、これが低塩すり身への応用を難しくしている点だったといいます。そこで研究チームは、この溶けにくさを克服する手段として「高強度超音波処理(HIUS)」という技術に着目しました。

研究でわかったこと

この研究では、塩(NaCl)の濃度(1%、2%、3%)、超音波の強さ(振幅20%、55%、90%)、そして処理時間(5分、32.5分、60分)という3つの要因を組み合わせた実験計画が用いられ、それぞれの条件がムラサキイガイすり身の性質にどう影響するかが調べられました。

その結果、超音波の強さと処理時間をともに増やすほど、タンパク質の溶けやすさ(溶解性)が大きく向上し、最大で104%の改善が見られたと報告されています。また、タンパク質の粒子の大きさ(平均粒子径)は最大73%小さくなったとのことです。SDS-PAGEやSEC-HPLCと呼ばれる分析手法を用いた検討では、超音波処理によって大きなタンパク質の塊がより小さな構成単位やペプチドへと分解されている様子が確認されたそうです。さらにATR-FTIRという手法による構造解析では、タンパク質の立体構造にも変化が見られ、分子間のベータシート構造が増える一方で、分子内のベータシート構造やランダムコイル構造は減少したと述べられています。

食品としての機能性に関わる部分では、最も強い超音波処理を最も長い時間行った条件で、保水力(水分を保持する能力)が最大124%向上したことが示されています。ただし、塩濃度が最も高い3%の条件で超音波処理を過度に行うと、ゲルとしての性質にはかえって悪影響が出たとも報告されています。加えて、より強い超音波処理を行うほど、ゲルの粘度は下がり、白さは増す傾向が見られたとのことです。全体として、塩の濃度と超音波の振幅・処理時間の間には有意な相互作用があり、これらが組み合わさってムラサキイガイすり身の構造や機能的な性質に影響を与えていることが示されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、超音波処理と塩分濃度を組み合わせることで、ムラサキイガイすり身の品質を高められる可能性を系統的に検討したものであり、低塩配合の新しいアプローチを示したものだと位置づけられています。水産分野や機能性食品分野への応用が期待されるとされていますが、あくまで一つの研究成果であり、実際の商品化や健康面での効果を保証するものではない点には留意が必要です。また、高塩濃度下での過度な超音波処理がゲル特性に悪影響を及ぼしたという結果からもわかるように、条件の組み合わせ次第で効果が変わりうることが示唆されています。

まとめ

今回の研究では、ムラサキイガイの筋原繊維タンパク質に高強度超音波処理を施すことで、低塩条件下でもタンパク質の溶解性や保水力が改善する可能性が示されました。一方で、塩濃度と超音波条件の組み合わせ次第ではゲル特性に悪影響が出ることもあり、今後さらに条件の最適化が進められることが期待されます。持続可能なタンパク源としてのムラサキイガイの新たな加工技術として、興味深い一歩と言えそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):ムラサキイガイ(Mytilus edulis)肉からの低塩すり身製造における超音波処理の可能性(ウルトラソニックス・ソノケミストリー・2026年08月掲載予定)

著者:M. Moghadam(Institute of Human Nutrition and Food Science, Division of Food Technology, Kiel University, 24118 Kiel, Germany)、T.R. Heyn(Institute of Human Nutrition and Food Science, Division of Food Technology, Kiel University, 24118 Kiel, Germany; Corresponding author.)、K. Schwarz(Institute of Human Nutrition and Food Science, Division of Food Technology, Kiel University, 24118 Kiel, Germany)、J.K. Keppler(Laboratory of Food Process Engineering, Wageningen University, Bornse Weilanden 9, 6708WG, Wageningen, P.O. Box 17, 6700 AA Wageningen, the Netherlands)