ケフィアは、乳酸菌と酵母がともに働くことで作られる発酵飲料として知られていますが、近年ではその発酵の仕組みを大豆由来の成分に応用する研究も進められています。今回紹介する研究では、黄大豆と黒大豆から抽出した「多糖(たとう)」と呼ばれる成分を対象に、ケフィア発酵とその後の酸化分解処理を行うことで、成分や働きがどのように変化するのかを詳しく調べています。多糖は食品の機能性成分として注目される成分の一つであり、発酵や化学的な処理によって性質が変わりうる点が研究の着眼点になっています。
研究チームは、黄大豆と黒大豆それぞれから多糖を多く含む抽出物(SおよびB)を用意し、これらをケフィア発酵させてS-FおよびB-Fを作りました。さらに、これらの発酵抽出物にアスコルビン酸と過酸化水素を用いた酸化分解処理を施し、S-FDおよびB-FDを得ています。物理化学的な分析の結果、S-F、S-FD、B-F、B-FDの間で、成分組成やフェノール化合物のプロファイル、分子量に明確な違いが見られたとのことです。また、赤外分光法(FTIR)による分析では、酸化分解によって特定の官能基の強度は変化したものの、多糖としての基本的な骨格構造そのものは壊れていなかったことが示されています。
発酵・酸化分解でACE阻害活性や抗酸化活性が向上
この研究では、血圧に関わる酵素であるACE(アンジオテンシン変換酵素)を阻害する働きについても調べられました。その結果、発酵によってACE阻害活性が高まり、さらにその後の酸化分解処理によってこの効果がいっそう強まったと報告されています。また、DPPHやABTSといったラジカル消去能、鉄イオンをキレートする能力、還元力といった複数の指標で抗酸化活性が確認され、酸化分解を経た抽出物のほうがより高い活性を示したとされています。
さらに、ヒト由来の神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いたin vitro(試験管内)の実験も行われました。抽出物は400μg/mLまでの濃度では細胞毒性を示さなかったとのことです。また、神経毒性物質であるロテノン(ROT)を処理した細胞に対して、200μg/mLの濃度で抽出物を加えたところ、細胞生存率の上昇とアポトーシス(細胞死)の減少が見られたと報告されています。ただし、複数のデータをまとめて解析する多変量解析では、酸化分解によって抗酸化活性やACE阻害活性は高まる一方で、SH-SY5Y細胞に対する保護効果はむしろ弱まる可能性があることも示唆されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、大豆由来のケフィア多糖抽出物が、血圧調節や抗酸化作用に関連する機能性素材として応用できる可能性を示すものですが、あくまで実験室レベルでの化学分析および細胞を用いたin vitro試験の結果に基づくものです。神経細胞に対する保護効果については、酸化分解によってむしろ低下しうる可能性も示されており、著者ら自身がさらなる検討が必要だと述べています。ヒトが実際に摂取した場合の効果を直接示したものではなく、一つの研究であり結論が確定したわけではない点に留意する必要があります。
まとめ
今回紹介した研究では、大豆由来の多糖抽出物をケフィア発酵させ、さらに酸化分解処理を加えることで、ACE阻害活性や抗酸化活性が高まる一方、神経細胞に対する保護効果は複雑な変化を示す可能性があることが報告されました。今後、こうした知見をもとに、血圧調整や抗酸化に関わる機能性食品素材としての応用に向けたさらなる研究が期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:発酵と酸化分解が大豆由来ケフィア多糖抽出物の組成、抗酸化活性、ACE阻害活性、in vitro神経保護能に及ぼす影響(フーズ・2026年07月)